商品やサービスを企画するとき、私たちは「どんな機能を持たせるか」「どんなニーズに応えるか」という発想にとらわれがちです。
しかし、現代の市場では、それだけでは不十分です。必要なのは、「どんな価値を、どの順番で、どう組み合わせて見せるか」という視点です。
この思考を直感的に体験できるのが、ボードゲーム『世界の七不思議(7 Wonders)』です。
プレイヤーは文明の指導者として、資源・軍事・科学・芸術などの異なるカード群を“収集=セットコレクション”しながら、自文明を発展させていきます。
本記事では、この“セットコレクション”的発想を、商品企画・サービス設計・ブランドポジショニングの文脈に応用し、選ばれる企画を構築するための視点を整理していきます。
組み合わせが価値を決める時代に、どんな“セット”を描くかが鍵になるのです。
七不思議の構造に学ぶ“価値の組み合わせ”思考
単体ではなく“セット”で機能する価値
『世界の七不思議』では、科学カード・軍事カード・資源カードなど、さまざまなカテゴリのカードが登場します。
中でも注目すべきは、カード単体ではなく、特定の組み合わせが得点になるという構造です。
これは、現代の商品企画にも共通します。
単一の機能やスペックでは差別化しづらくなっている現在、「●●×△△」といった複数の要素をどうセットアップするかが、企画の勝負どころになります。
たとえば、「高性能」だけではなく、「高性能×サステナブル素材」「高性能×直感的操作性」のような組み合わせが、商品の独自性を際立たせます。
つまり、価値は“組み合わせ”の中に宿るのです。
5分でわかる!7WONDERS (世界の七不思議) ルール説明
“文明ごとの戦略”とターゲット設定
ゲーム内には複数の文明(プレイヤーボード)があり、それぞれ得意な領域が異なります。
ある文明は軍事に強く、ある文明は科学系のカードを集めやすい――この違いは、プレイヤーの“選択の軸”を大きく変えていきます。
これは、商品企画における“ターゲット設定”に通じます。
誰に向けて、どんな文脈で企画するのか。全員に向けて平均的な構成をするよりも、「この人たちにとってベストな組み合わせ」を意識することで、より濃く刺さる商品が生まれます。
七不思議が教えてくれるのは、「万能な組み合わせはない」という現実です。
むしろ、“特定の顧客にフィットする組み合わせ”の設計こそが、戦略の本質だと言えるでしょう。
“カードの流れ”と企画の連携構造
ゲームのもう一つの特徴は、「ドラフト方式」です。
プレイヤーは手札から1枚選んで出し、残りを隣に回す――これを繰り返していきます。
この“流れ”の中で、どのカードを選ぶかという判断は、今後の展開に大きく影響します。
これは、商品やサービスの“企画群”や“コンテンツ群”をどう構成するかという課題に置き換えることができます。
単品企画ではなく、複数企画がどう連動し、どんな順番で受け取られるかを意識することが、ブランドやプロジェクト全体の価値を底上げしていきます。
たとえば、「初心者向け講座→体験版→有料本講座」という流れは、七不思議で言えば「資源→建物→勝利点カード」のような展開です。
単なる点ではなく、連なりとして企画を設計する感覚が、顧客体験をなめらかにし、全体戦略を強化してくれます。
後半パートでは、実際の企画やビジネスシーンにおいて、“セットコレクション”思考をどのように応用し、差別化とポジショニングの確立につなげていくかを深掘りしていきます。
実践に活かす“セット発想”の商品設計術
機能ではなく“物語”で価値をつなぐ
現代の顧客は、単なる機能や価格だけで商品を選ぶ時代ではありません。
求められているのは、「その商品がどんなストーリーを届けてくれるか」という体験全体の価値です。
七不思議でいうなら、科学カードを1枚持っていても意味は薄く、「3種揃える」ことで倍の得点が生まれるように、要素が物語を描く形で繋がったときにこそ力を発揮します。
商品でも、「素材のこだわり」「デザインの哲学」「届け方の新しさ」といった要素を並列ではなく連鎖的に構成することで、ユーザーの記憶に残る“意味ある組み合わせ”が生まれます。
たとえば、「オーガニック素材のアパレル+地元生産+再利用可能パッケージ」といったセットは、それぞれ単独でも価値がありますが、組み合わさることで“環境への共感”というストーリーが立ち上がるのです。
“隣接との差異”がポジションを際立たせる
七不思議では、自分の左右のプレイヤーが何を集めているかを観察することが、戦略の成否を大きく左右します。
特に、資源の売買や軍事対決は隣接プレイヤーに依存しているため、「他者と似すぎない構成」が求められます。
これは、商品企画における競合との差別化に通じます。
どんなに優れた商品でも、隣に似たようなものが並んでいれば、その価値は埋もれてしまいます。
重要なのは、「似ているようで違う」「これは自分のためだと感じる」と思ってもらえる、差異の設計です。
そのためには、機能や見た目ではなく、「価値の連携構造」によって差を生み出す必要があります。
七不思議のセット構築のように、「集めて意味のある流れ」を自分の文脈で描ければ、自然と他者との違いが際立ち、独自のポジションが確立されていくのです。
“中盤の手”が未来を決める
七不思議は、3つの時代(ラウンド)を通じて構築していくゲームですが、真に差がつくのは第2時代=中盤です。
序盤は資源の確保、終盤は勝利点の獲得が中心ですが、どの道に進むかの“方向づけ”が行われるのは、まさに中盤の戦略によります。
商品企画でも、リリース後の展開や改良の構想を“最初から中盤の視点で考える”ことが重要です。
第一弾で全力を出し切るのではなく、「この要素は次に繋がる」「このシリーズは2作目が本命」といった構築型の発想が、ブランド形成にも直結します。
七不思議のように、「次を見越した今の一手」を組み込んでいくことで、商品企画が点から線、線から面へと進化していくのです。
セットコレクション思考をビジネスに落とし込むには?
1. “要素の棚卸し”で強みを見つける
まずは、自社や自分の企画が持っている要素を洗い出してみましょう。
素材・ターゲット・価格帯・製造方法・販売チャネル・世界観など、カードのようにバラバラに見える価値要素を一覧化することで、“組み合わせの可能性”が見えてきます。
七不思議では、カードが見えて初めて「どの方向に進めるか」が明確になります。
同様に、商品開発やサービス設計においても、「何を持っているのか」「何が足りないのか」を把握することで、戦略的にセットを構築する思考が育っていきます。
2. “揃えて嬉しい形”を意識する
ただ機能を詰め込むのではなく、「このセットなら欲しくなる」「この並び方なら伝わる」と思える構造をデザインすることが大切です。
たとえば、七不思議の科学カードのように、「3種揃えば倍になる」ような意味づけの設計ができれば、企画の説得力が格段に増します。
「知識×実践×コミュニティ」「美容×健康×習慣」といった“連携による新しい意味”をどう作るかを考えると、差別化された価値が明確になります。
3. “競合の流れ”を読み、差し込む
最後に、競合や市場の“流れ”を読む力も必要です。
七不思議では、他プレイヤーの構築パターンを見て、「あえてそれに乗る」か「違う流れを取る」かの判断が求められます。
ビジネスでも同じです。
トレンドに乗りつつも、“あえてズラす”セット構成をすることで、ユーザーの記憶に残りやすいポジションが生まれます。
周囲の流れを感じ取りながら、“自分だけのセット”をどう差し込むか。それが、ポジショニングの妙なのです。
結び|価値は“構成”に宿る
点ではなく、構成で勝負する時代
ボードゲーム『七不思議』が教えてくれるのは、価値は単体ではなく「構成」に宿るという事実です。
カード1枚で勝つのではなく、組み合わせたときに意味を持つ――この構造をそのまま企画や商品に転用することで、より深く刺さる価値提供が可能になります。
企画の本質は、「何を届けるか」ではなく「どう重ね、どう展開するか」にあります。
あなたの“セット”は、どんな未来を描くか?
最後に問いかけたいのは、「あなたの組み合わせは、どんな未来を描こうとしているか?」ということです。
そのセットが持つ意味、その流れが届ける物語――それらすべてが、顧客との関係性をつくり、選ばれる理由になります。
七不思議の文明構築のように、今の一手が未来につながる。
その感覚を、あなたの商品企画にも活かしてみてください。