感情はバグじゃない|EQで差がつく共創スキル

「人間関係が複雑になるのは、感情があるからだ」
そんな言葉を耳にしたことはありませんか?
たしかに、感情は時に予測を狂わせ、合理性をかき乱す要因にもなります。
けれど、それは本当に“邪魔なバグ”なのでしょうか。

私たちがボードゲームやチームで何かを成し遂げるとき、最も複雑で、最も大切なのが“他者との関わり”です。
そこには必ず、言葉にしにくい感情が介在します。
そしてその感情をどう扱うかが、ゲームでも現実でも、協働の質=共創力を決定づけるのです。

この記事では、「マルチプレイヤーゲーム(複数人協働型)」の設計思想を手がかりに、感情との付き合い方、EQ(感情知性)の高め方、そして“バグ”ではなく“設計要素”としての感情を捉えるヒントを探っていきます。


マルチプレイヤーゲームに見る感情の動き方

感情が“盤面”に影響を与えるゲーム構造

マルチプレイヤーのゲームでは、2人用と違って「感情の揺れ」が盤面全体に波及します。
たとえば、誰かが強く出すぎればヘイトを集め、他者から集中攻撃を受けることも。
逆に、控えめすぎても場を動かせず、周囲から無視されることがあります。

このように、感情はただの内面の反応ではなく、“ゲームの力学”に直接作用する要素です。
現実の職場やチームでも、「空気を読む」「感情の波を察知する」といった行為は、無意識のうちに“盤面への最適手”を選ぶための判断材料となっています。

つまり、感情とは“読み合い”の材料であり、戦略の変数でもあるのです。

“協働型”だからこそ感情が絡む

たとえば、協力ゲーム『パンデミック』では、全員で目的を共有しながらも、「今誰が発言するか」「どの案が通るか」で、しばしば感情の揺れが生じます。
「自分の意見が採用されなかった」「誰かのリスクを肩代わりして失敗した」といった出来事は、合理的には説明できない“もやもや”を残すことがあります。

ここにこそ、EQの出番があります。
EQとは、「感情を認識し、扱い、他者の感情にも適応する能力」です。
マルチプレイヤーゲームでは、他者との非言語的なやり取りを通じて、自分と他人の感情を“遊びながら体感的に読み解く力”が養われていきます。

これは単なる“優しさ”ではなく、場の動きに対する“感情的反応速度”とでも言えるでしょう。

感情の“詰まり”が戦略を誤らせる

感情がバグになるのは、「感じていることを認識できていない」時です。
たとえば、「なぜかやる気が出ない」「この人の言葉に無性にイライラする」など、自分の内面にラベルが貼れない状態は、思考の精度を下げ、誤った判断につながります。

ボードゲームでも、「負けそうだから焦る」「攻撃されたから報復したい」といった“感情起因の判断”は、戦術として冷静に見れば損であっても、プレイヤーとしては“避けがたい衝動”として現れることがあります。

だからこそ、「今、自分はどんな感情を感じているのか?」「なぜ、そう感じたのか?」を観察することが、戦略的判断のチューニングにつながるのです。

EQを活かした“多人数協働”の実践術

感情は“プレイヤーの声”である

感情はしばしば、「抑えるべきもの」「仕事に持ち込むべきではないもの」とされがちです。
しかし実際には、感情はその人の認知フィルターであり、“何かがずれている”というシグナルでもあります。

たとえば、プロジェクト中に「なんとなく納得できない」と感じたなら、それは方針がずれているか、コミュニケーションのリズムが合っていない可能性があります。
この“違和感”に気づくことこそが、EQの力です。

ゲーム中でも、仲間のちょっとした沈黙や急な態度の変化が、場の空気を揺らすことがあります。
その微細な動きに“耳を澄ませる”ことで、プレイヤーたちは盤面に見えない情報を感じ取り、判断を微調整していくのです。

つまり、感情とはバグではなく、“プレイヤーの声を聞くためのインターフェース”なのです。

EQは“空気のバランサー”として機能する

多人数で動くチームにおいて、EQの高い人は場の空気を読むというよりも、**“場に余白をつくる”**役割を果たしています。
それは、誰かが感情的になったときに言葉を添えたり、緊張した空気を少し緩めたりと、微調整の力として発揮されます。

ゲームでいえば、リーダーではなく“バッファー”のような存在です。
決定を強引に引っ張るのではなく、場を壊さず、次の判断を可能にする土壌を整えるという意味で、EQは立派な戦略スキルなのです。

この“感情の余白”があることで、チームは安心して失敗でき、安心して修正できます。
それが長期的には創造性や挑戦を支える安全なゲーム設計=心理的安全性を生み出していきます。

“感情を言語化する力”が戦術を支える

EQを高めるうえで欠かせないのが、「自分の感情をラベリングする力」です。
たとえば、「イライラしてる」ではなく、「期待が裏切られて悲しい」と表現できること。
これは、戦術でいえば“状況分析”にあたります。

感情をただぶつけるのではなく、自分の内部状態を翻訳して言葉にすることが、他者との信頼を深めるきっかけになります。
たとえば、「最近あまり意見を出していないのは、うまく噛み合っていない感覚があって…」と伝えるだけで、関係性は一変します。

ボードゲームでは、“この手はリスクがあるが、仲間を信じて進む”という感情判断が勝負を決めることもあります。
それを言葉にできる人は、チームを安心させながら戦略を前に進める力を持つのです。


EQを鍛える3つのプレイスタイル

1. 感情を“判断の材料”として扱う

最初のステップは、感情を「正しい/間違い」で捉えるのではなく、「今この状況に何が起きているかを教えてくれるデータ」として扱うことです。
たとえば、「不安」を感じたら、それは情報不足のサインかもしれません。
「イライラ」は、価値観や期待のズレを示しているかもしれません。

このように、感情をきっかけに“状況を見直す”クセを持つことで、感情に流されず、使いこなすことができます。

2. “小さな開示”で空気を整える

EQの高い人は、「全部言う」のではなく、「今この場に必要な範囲で開示する」ことが得意です。
たとえば、「今ちょっと焦ってるかもしれません」「その提案、ちょっと時間が欲しいです」といった、小さな感情のシェアが、場の緊張を緩めることがあります。

ゲームで言えば、「このターンは防御的にいきたい」と言っておくことで、他プレイヤーの誤解を避けられるようなものです。
感情の開示とは、関係性の摩擦を避ける“ガイド”のような役割を果たすのです。

3. “読み合い”を楽しむ余裕を持つ

マルチプレイヤーの面白さは、戦略だけではなく、人間そのものを読むことにあります。
誰が今、余裕がないのか、誰が他者を気遣っているのか――そうした“感情のレイヤー”が、ゲームを奥深くしていきます。

職場でも同じです。
メンバーの一言に潜むニュアンス、表情の変化、空気の微細な動きに気づけたとき、EQは単なる能力ではなく、感覚の美学へと昇華していきます。

“感情を感じ取る”こと自体を楽しむこと。
その余裕が、あなたを「強い共創者」に変えていきます。


結び|感情は、共創のOSである

感情は“バグ”ではなく、“設計思想”である

私たちが感情を“うまく扱えないもの”と見なしている限り、それは常にやっかいな存在として扱われてしまいます。
けれど実際には、感情こそがチームの方向性や関係性のズレを教えてくれる“調整装置”です。

ボードゲームの設計者たちが、“複数人で遊ぶ設計”に感情を組み込んでいるように、
組織やチームも、“感情を前提とした設計”ができたとき、初めて真の意味で機能しはじめます。

EQは、未来を共につくるスキル

これからの時代、AIやシステムが論理やデータを担っていくほどに、
人間には「感情の扱い方」が問われるようになります。
EQとは、未来の共創に必要なスキルであり、**“人間らしさの洗練された形”**です。

あなたが感じていること。相手が沈黙している理由。場に流れる微細な空気。
それらすべてを“見える化”する力こそが、これからの協働プレイヤーの最強スキルになるはずです。

感情を、武器にも、土台にも、余白にも。
それが、EQ時代のプレイスタイルです。

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