「どうしても苦手な人がいる」
「ミスが怖くて前に進めない」
「なんだかうまくいかない気がする」
そんな思いにとらわれる時、問題そのものよりも、“その見方”に縛られていることがあります。
心理学でいう「リフレーミング」は、状況や意味の枠組み(フレーム)を意識的にずらすことで、思い込みや苦しさから抜け出す方法です。
そしてこの“視点を変える力”は、訓練しないと意外と身につきません。
ところが、遊びやゲームの中では――「ルールを変える」「視点を逆にする」「役割を入れ替える」といった体験が自然と起こります。
この記事では、ボードゲームやプレイフルな場面を通じて、**日常に役立つ“リフレーミングの筋力”**を育てる方法を掘り下げていきます。
「いつもの思考パターンを変えたい」「柔軟なものの見方を育てたい」と感じている方に、ヒントとなる視点をお届けします。
問題は変えずに“見方”を変えるという発想
「それ、見方を変えれば長所になるよ」
たとえば、ある子どもが「落ち着きがない」と言われていたとします。
けれども別の人がその子を「行動力がある」と表現すれば、まったく違う意味になります。
同じ現象でも、意味づけ(frame)を変えることで印象が変わる。これがリフレーミングの基本です。
大人でも同じです。
「こだわりが強い」は「信念がある」とも言えますし、
「優柔不断」は「多角的に考えられる」とも言えます。
リフレーミングの力は、思考の柔軟性に直結しています。
柔らかい見方は、自分にも他人にも優しくなれる。
これは単なる思考法ではなく、生きやすさの土台なのです。
ゲームは“意味の入れ替え”の練習場
ボードゲームの中には、リフレーミングを自然に体験させてくれるものが多くあります。
たとえば『バニー・キングダム』のように、最初は価値が低く見えるカードでも、後の展開次第では勝敗を左右する重要なキーになります。
「いらない」「使えない」と思っていたものが、「最高の逆転カード」になるという展開は、まさに意味の入れ替え(re-framing)です。
また、『コンセプト』のような連想ゲームでは、他者の視点を想像しながらヒントを読み解く必要があります。
そこでは「自分ならこう見るけど、相手はどうかな?」という思考の切り替えが重要になります。
こうした遊びの中で、「状況や意味を複数の枠で見る」「価値を再評価する」ことを繰り返すことで、日常にも応用できる視点の柔軟性が養われるのです。
“失敗”を笑いに変える力もリフレーミング
さらに、ゲームの中では「失敗」や「負け」が必ず起こります。
でも、そこには“意味の再構成”の余地があります。
ミスを「恥ずかしいこと」と捉えるか、「面白い展開のタネ」と見るかで、場の空気も自分の感情もまったく変わるのです。
『犯人は踊る』のような読み合い系ゲームでは、読み違いによる笑いや展開の妙も醍醐味です。
「外した」ことすら物語の一部に変える。
そんな余白のあるゲーム体験が、「しくじり」への恐れをほぐしてくれます。
この「笑いに変える」「ストーリーに変える」力は、心の柔軟性=心理的レジリエンスとも直結します。
遊びの中で「負け=終わり」ではなく、「負け=味のある場面」と見る感覚を育てることで、現実世界でもより寛容に自分を見つめられるようになります。
視点の切り替えが育む“内省と共感”の土壌
日常の“思い込み”に気づく力
私たちは、自分でも気づかぬうちに「自分ルール」に縛られていることがあります。
たとえば、上司の無言=不満、後輩のため息=不満足、ミス=自分の責任……といったように。
しかし、これらはすべて解釈の“フレーム”であって、必ずしも事実ではありません。
そんな“無意識の前提”に気づく訓練としても、リフレーミングは有効です。
『ミステリウム』のように、曖昧な手がかりから真実を推理するゲームでは、ひとつの情報にも複数の見方があることを強く意識させられます。
「これはこうに違いない」と決めつける前に、「他にどう解釈できるだろう?」と問う姿勢が、自己理解の深化と他者理解の橋渡しになります。
共感のベースにある“見えない世界”の想像力
リフレーミングは単に思考法ではなく、想像力の訓練でもあります。
自分とは違う立場、異なる感情、別の価値観――それらを想像するには、感受性だけでなく、構造的な視点の切り替えが必要です。
たとえば『セレスティア』では、他の乗客と“同じ船”にいながら、誰がいつ降りるかで展開が大きく変わります。
「他の人はどう感じてるんだろう?」「自分の選択はどう影響するだろう?」といった読み合いが、感情の多層的理解と選択の相互性を促します。
この“他者のフレームで世界を見る”という体験こそが、リフレーミングの核心であり、共感力の源泉でもあるのです。
固定観念をほぐす遊び方のすすめ
現実の場面では、役割・立場・文化といった“動かしにくい枠”が多くあります。
だからこそ、遊びの中で「別の見方」「逆の立場」「想定外の展開」を経験しておくことが、
しなやかな内面の土台になります。
実際におすすめしたいボードゲームには、以下のようなものがあります:
- 『イマジナリウム』:メカニズムと抽象の世界で、視点と論理を行き来させる
- 『アウグストゥス』:運と戦略のバランスを読み違えた時こそ、視点転換のチャンス
- 『キュビトス』:失敗が加速の鍵になることを、繰り返しの中で学べる
こうしたゲームでは、「何が正解かわからない状況」や「意図しない結果」に直面することがしばしばあります。
そのたびに私たちは、「どう受け止めるか」「次にどう活かすか」を問い直します。
このプロセスがそのまま、現実世界のリフレーミング力を底上げするトレーニングとなるのです。
結び:世界を「もうひとつの目」で見る
人生は、決して一本道ではありません。
解釈の仕方、意味の見つけ方、価値の置き方――それらの変化によって、過去すらも書き換わることがあります。
リフレーミングの力とは、まさにその“意味の再構成”によって、自分の人生を再編集する力です。
もしあなたが今、どこかで行き詰まりを感じているなら――
それは、現実そのものが壁なのではなく、「その見方」によって閉じてしまっているのかもしれません。
遊びの中で“別の目”を持つ経験は、静かに確かに、あなたの中の柔らかさを育てます。
そしてそれは、AIや他者と共に生きるこの時代において、最も必要とされる知性かもしれません。