「答え」は最初から、誰の手にもない。
ただ、それぞれが持つ“断片”を繋げた先に──謎の姿が浮かび上がる。
ボードゲーム『クリプティッド』は、そんな“共有された不完全情報”から導かれる答えを追い求める、思考型推理ゲームです。
プレイヤーたちはそれぞれ異なるヒントを握りながら、互いに質問を重ね、手がかりを可視化し、未知の生物(クリプティッド)の居場所を突き止めていきます。
AI時代の今、「全員がすべてを知っている」という幻想は崩れつつあります。
代わりに私たちは、「他者の持つ情報の意味を推測し、つなぐ」能力が求められています。
つまり、“問い方”と“読み解き方”こそが、新しいリテラシーとなっているのです。
今回は、直感と論理の狭間を旅する『クリプティッド』を題材に、
情報社会における“推理力”と“共創力”について、構造的に読み解いていきます。
クリプティッドとは何か?|推理と共創のハイブリッドゲーム
プレイヤー全員が“謎の一部”を持っている
このゲームでは、プレイヤー一人ひとりに「この生物は○○の近くにはいない」「水域に隣接している」など、異なるヒントが配られます。
しかし、自分の持つ情報だけでは答えには辿り着けません。
他者の行動や質問、そして“答えた時の表情”までを読み解いてこそ、正解の座標が浮かび上がるのです。
この構造は、まさに現代のチームワークに通じます。
すべてを自分で知ることは不可能な時代、他者の知識と視点をどう接続するかが、問題解決の鍵を握るのです。
「正解」が存在するのに、誰も知らないという緊張感
ゲーム開始時点で、ボード上にはすでに“正解のマス”が存在しています。
それはプレイヤー全員のヒントを組み合わせれば、必ず1箇所に定まるよう設計されているのです。
ここが重要なポイント。
「真実は存在する、だが誰もそれを知らない」──この構造が、推理と対話のゲームを成立させています。
これは、プロジェクトやチームの意思決定にも似ています。
最良の選択肢が存在するかもしれない。だが、それは全員が持ち寄った視点を繋がなければ見えてこない。
クリプティッドは、“集合知による真実の発見”を体験する場なのです。
ヒントの断片から真実を導く|観察・仮説・質問の技術
直接的な質問より、「反応」を読む力
このゲームでは、あるエリアを指し示して「あなたの条件に当てはまりますか?」と尋ねることができます。
相手は「YES」か「NO」で答えるだけ。
しかし、その一言が他のプレイヤーの条件にもリンクしている可能性がある。
つまり、質問は単に情報を引き出す手段ではなく、観察と仮説のトリガーでもあるのです。
「なぜこの質問をしたのか?」「なぜこのマスにYESを出したのか?」──
問いの背後にある意図までを読み解くことができれば、盤面は一気に立体的になります。
言語でなく、構造を読む思考法
クリプティッドでは、ルール上のやりとりは非常にシンプル。
だが、進行するにつれてプレイヤー同士の“無言の協調”や“牽制”が生まれてきます。
この“非言語の構造”を読む力は、実社会でも極めて重要です。
会議中の表情、メールのタイミング、誰がどの話題に興味を示すか──
情報は言葉の外側にこそ宿っているという感覚を、ゲームを通じて自然に身につけられるのです。
プレイスタイルに見る“協働性の差”|論理型・直感型・巻き込み型
答えを導く速度より、“導き方”に個性が出る
誰が最初に正解を出すかも重要ですが、むしろ面白いのはその“プロセスの違い”です。
・ひたすら盤面に印をつけ、情報を整理する“ロジカル型”
・相手の目線や雰囲気から方向性を読む“直感型”
・積極的に質問しながら他者の思考を巻き込む“共創型”
それぞれのアプローチに優劣はなく、多様なスタイルが共存することこそが、盤面の推理を豊かにします。
これはまさに、今の組織やチームに求められる“多様性の活かし方”と一致しています。
異なる推論経路が交差するからこそ、見えなかった“正解のマス”が明らかになるのです。
日常に活かす“構造推理”|見えない答えにどう近づくか
会議での“正解”は、誰かの沈黙の中にあるかもしれない
会議やチームのディスカッションにおいて、
「誰も明言しないけれど、なんとなく皆が避けている案」や、
「ある一言に対してだけ、妙に空気が変わる」ことがあります。
それは、誰かが心の中で“持っているヒント”かもしれません。
発言されなかった情報、言葉の選び方、視線の動き──
そうした非言語的なサインを読み取る力が、
実はプロジェクトを一歩前に進める鍵になるのです。
クリプティッドの世界では、誰かがYESと答えた瞬間に
「この人のヒントは水辺と関係があるのでは?」と推測が始まります。
現実でも、「あの人がその案を推さなかった理由は?」という問いこそ、会話の核心なのです。
結論ではなく“構造”を伝える対話力
仕事でもプライベートでも、「何を言うか」以上に、
「なぜそう考えたのか」「どんな仮説を立てたのか」を伝える力が大切です。
クリプティッドで勝利するためには、
相手の思考構造をできるだけ正確に読み解く必要があります。
そこでは、「この人は何を言ったか」だけでなく、
「何を前提として、どう絞っているか」という思考の“順路”に注目する必要があります。
この力は、ビジネスにおけるファシリテーションや
感情のこじれやすい人間関係の“交通整理”にも応用可能です。
心理的安全性と“遊びながら本気で考える”空間
失敗が許されるから、深く考えられる
クリプティッドには、明確なルールがありますが、
誰かの発言や質問に対して「それは違う」と攻撃する場面はほぼありません。
むしろ、「あれ?なぜこの選択?」と皆が自然に“一緒に考えるモード”に入ります。
この空気が、ゲームにおける“心理的安全性”を作っています。
間違っても責められない。仮説が外れても恥ずかしくない。
そうした土壌があるからこそ、人は自由に推理し、発言し、他者と連携できるのです。
これは、創造的な職場環境に必要な要素そのものです。
遊びの中で育てられる“信頼と自由”。
クリプティッドはその空気感を、ルール設計から実現しているのです。
遊びだからこそ、真剣に“他者を読む”
クリプティッドをプレイしていると、
相手のまなざしや言葉の選び方に自然と注目するようになります。
「この人はなぜ、ここで迷ったのか?」
「YESと答えた直後、他の誰かが目を見たのはなぜか?」
こうした観察力は、遊びだからこそ育ちやすい。
そしてそれは、現実においても人間関係の“ノイズ”を減らし、
相手の本音を傷つけずに理解する技術へと変化していきます。
AI時代の“問い方”を鍛える|正解は見えなくていい
AIは答えを持っているが、人は問いを育てられる
ChatGPTのようなAIは、時に人間より多くの情報を整理し、答えを出してくれます。
しかし、「どんな問いを立てるか」「どのような視点から眺めるか」は、あくまで人の領域です。
クリプティッドの面白さは、まさに「どう問うか」によって、得られる情報が変わるという点にあります。
これは、AI活用にも通じる本質です。
良い問いは、良い答えよりも大きな価値を持つ。
そしてその問いを磨くには、“答えのない場”で遊ぶことが最良の訓練になるのです。
仮説思考 × 推測力 × 対話センス=“現代の探偵力”
クリプティッドを通じて養われるのは、
・仮説を立てる
・他者を観察する
・情報を構造的に扱う
・自分の問い方に自覚的になる
という、一連の“現代の探偵力”ともいえるスキルです。
しかもそれが、ゲームという安全で軽やかな舞台の中で行われる。
これは、まさに“遊びながら深く学ぶ”という、Ωブログが伝えたい世界そのものです。
結び|“誰も知らない正解”を共に見つける
このゲームに、最初から正解を知っている者はいません。
それでも、全員が手を取り合って“たったひとつの場所”にたどり着く。
それが、クリプティッドという遊びの持つ奇跡です。
情報が溢れ、AIが答えを語る時代だからこそ、
私たちは問いの立て方や、他者と真実を発見していくプロセスに価値を見出していく必要があります。
あなたの周りにも、何かを知っているけれど語らない誰かがいるかもしれません。
その人が持つヒントと、自分の視点とを結びつけて──
共に“まだ見ぬ答え”を描いていくこと。
それが、新しいリーダーシップであり、共創のはじまりです。
次にクリプティッドをプレイするとき、あなたはもう“問い方の達人”になっているはずです。