「思考が詰まったときは、盤面を広げてみよう」
そんな感覚を体に染み込ませてくれるゲーム、それが『ブロックス』です。
ルールは至ってシンプル。自分の色のピースを、角と角が接するように置いていくだけ。けれども、この“角だけでつなぐ”という制約が、じつに深い戦略性を生み出します。
見えている空間にどう打って出るか。他人の動きをどう読むか。自分の居場所をどう残すか──
『ブロックス』は、日常にも通じる「場所取り」と「未来設計」の感覚を、遊びながら磨ける稀有なゲームです。
「空間を読む力」「先を見通す力」「他者との駆け引き」──
これらのスキルは、ただ知的な力というだけでなく、社会のなかで自分のポジションを築くための土台でもあります。
ブロックスは、いわば「平面の将棋」。
けれども、そこにあるのは“勝ち負け”を超えた「思考の対話」。
今回は、このゲームを通して得られる「空間的戦略思考」の真髄に迫っていきましょう。
空間は情報でできている|ブロックスの思考モデル
空間=情報。盤面は“意味”のフィールド
『ブロックス』において盤面は、単なるマス目の集合ではありません。
各ピースが置かれるごとに、そこは“意味ある場所”に変わっていきます。
例えば、自分が狙っていたエリアに他人が先に置いたとき。
それは「戦略の衝突」であると同時に、「意味の上書き」でもあります。
自分にとっての自由は、他者にとっての制限となり、逆もまた然り。
このように、空間は情報でできているという感覚は、現代社会を生きる上で非常に重要です。
物理的な場所でも、SNSの中でも、私たちはつねに「意味の空間」を読み、選択しています。
【ボードゲーム】ブロックス/Blokusの紹介 ルール遊び方 人数
先読みとは「余白を残す」技術である
多くの初心者が陥るのが、すぐに大きなピースを置きたがることです。
しかし、『ブロックス』の中・上級者になると、序盤はむしろ“小さな余白”を意図的に残していきます。
これは将棋や囲碁の“布石”にも通じる戦略です。
つまり「今の一手が、後の何手に影響するか」を読み、未来の自由度を確保しておくという思考。
こうした「未来の自分に可能性を残す」思考は、時間管理・プロジェクト設計・人間関係など、
あらゆる場面に応用できます。
ブロックスは、短期的な効率よりも、長期的な布石の価値を教えてくれるゲームなのです。
他者を読むとは、自分を俯瞰すること
ブロックスの本質は「自分対他人」ではなく、「自分と他者のあいだ」にあるダイナミズムにあります。
相手の意図を読むとは、単に“出方を予測する”だけではありません。
相手の打ち手によって、自分がどう反応してしまうかという内面の癖に気づく機会でもあるのです。
「あ、また自分はこういう場面で焦ってる」
「このパターンになると、つい無理に突っ込んでしまう」
──こうした自覚が育つとき、ゲームはまさに「自己理解」のツールへと昇華します。
ブロックスは、「相手を見ること」と「自分を知ること」がセットになっている。
それはまるで、社会や組織で起こるあらゆるインタラクションの縮図そのものです。
ブロックス的思考の応用|教育・チーム・自己戦略に活かす
教育の場における「非認知能力」の育成
近年、教育現場で注目されているのが「非認知能力」。
思考力・判断力・自己制御・協働性──テストの点数には表れにくいけれど、社会で生き抜く力の本質です。
ブロックスの魅力は、子どもたちが夢中になって遊ぶ中で、この非認知スキルを自然に育める点にあります。
・「ここを埋めたら、次にどんなピースが入るだろう?」と未来を予測する力
・「あの子はどこを狙っているんだろう?」と他者の視点を想像する共感力
・「この手を打った後のパターンをどう広げるか?」という構造的思考
このように、ブロックスを通じて育まれる力は、単なる“賢さ”ではなく、**社会性と論理性が融合した「柔らかな知性」**だと言えるでしょう。
チーム戦略の訓練としての“静かな対話”
ブロックスは基本的には個人戦ですが、プレイを通して“無言の対話”が生まれます。
誰かの手が速くなったとき、ピースが攻めに転じたとき──言葉でなくとも、緊張感や意図の変化が伝わるのです。
この感覚は、ビジネスにおける「空気の読解力」や「タイミングの見極め」に直結します。
たとえばプロジェクトマネジメントにおいて:
・初期のリソース配置で、どれだけ未来の柔軟性を確保できるか
・他メンバーの動きを見て、自分の打ち手をどう変えるか
・衝突を避けながら、戦略的に“場を取る”にはどうしたらよいか
ブロックス的発想は、単なる“勝利”ではなく、関係性と空間設計を両立するバランス感覚を育ててくれます。
現実設計のメタファーとしてのブロックス
人生は、決して完璧な設計図の通りには進みません。
だけど、ブロックスで経験する「柔らかく構想し、流動的に調整する力」は、人生の多くの局面で役立ちます。
・完璧にハマるピースばかりではない
・思い通りの場所は、他人に先を越されるかもしれない
・だけど、諦めずに別の角度から打ち込めば、また新しい展開が開ける
これらは、まさに「選択肢を持ち続ける力」「やり直せる感覚」「小さな可能性に賭ける勇気」のメタファー。
ブロックスをプレイするたびに、私たちは知らず知らずのうちに、「設計し直せる思考」を自分の中に育てているのかもしれません。
結び|ブロックスは「思考のリハビリ」である
最後に、こんな視点でまとめてみましょう。
ブロックスは、思考のリハビリのようなゲームです。
情報が多すぎて判断に迷うとき、
他人の動きに振り回されて感情的になるとき、
つい目の前の結果に一喜一憂してしまうとき──
そんな「現代の思考疲れ」に、ブロックスは静かに語りかけてきます。
「一手ずつでいい」
「広く見よう」
「未来の自分のために、今を設計しよう」
戦略という言葉には冷たい響きがあるかもしれません。
けれどブロックスを通じて育まれるのは、他者との競争ではなく、他者との“調和的な共存”のための戦略力なのです。
遊びながら、心が整い、頭が澄んでくる。
そのとき、きっとあなたも気づくでしょう。
「考えるって、気持ちいいことだったんだ」と。