介護と聞くと、どこか重たく感じるかもしれません。高齢化が進む日本では、誰もが当事者になりうる課題です。けれど、その中には「人を支える」「気持ちを汲み取る」「適切な判断をする」といった、人間にとって根源的なスキルが求められています。そんなスキルを“ゲーム”で育てると聞いたら、どう感じるでしょうか。
実は、ボードゲームには「介護」に通じる力を楽しく・実感を持って鍛える可能性があります。ここでは、共感力・観察力・協働的判断といった視点から、実際に存在するボードゲームを通して、共生社会の知恵を育む方法を探っていきます。
介護に必要な力とは?共生社会に必要な視点を考える
共感と観察:相手のニーズに気づく力
介護においてもっとも大切なのは、相手の立場に立って考える“共感力”です。加えて、体調や気分の変化を察知する“観察力”も欠かせません。これらは、日常的な対話の中では意識しづらいですが、ボードゲームではルールに縛られつつも相手の内面を読み取る場面が多く、自然にこの力が鍛えられます。
たとえば『I TO(イト)』は、数値カードの“主観的な価値”をもとに全員で昇順をそろえる協力ゲームです。「これはどれくらい美味しい?」「この服はどれくらいおしゃれ?」といった価値観の違いを前提に、他人の感覚を推測することで、言語外の共感力が養われます。介護の場面でも、言葉にしづらい相手の気持ちを“読む”力はとても重要です。
判断と選択:最善の“次の一手”を探る
高齢者の体調や気分は、刻々と変化します。食事・服薬・移動・休息など、場面ごとに最適な対応を判断する柔軟さも必要です。この“判断と選択”は、ゲーム的思考に極めて近い領域です。
その観点から注目されるのが『パンデミック』です。感染症の拡大を防ぐ協力ゲームで、プレイヤー全員が役割を持ち、限られた行動回数の中で最善の手を選び続けることが求められます。時間と資源が限られた中での選択は、まさに介護の現場での判断に似ています。
チーム連携:役割を理解し、支え合う
介護は一人で抱えるものではありません。家族、医療、福祉関係者との連携が重要です。ゲームでも、役割分担と連携によって結果が左右されるものがあります。
『フラッシュポイント:火災救助隊』は、消防士として協力して火災現場から人命を救うゲームです。「運搬」「消火」「特殊装備」など各自のスキルを活かして協働する構造は、まさにチームケアの感覚を遊びの中で体験できます。互いの強みを理解し、助け合いながら進める姿勢は、共生社会における重要な姿でもあります。
実際の現場で使われているボードゲーム事例
実は、介護や看護、福祉の教育現場でも、すでにボードゲームは活用され始めています。たとえば、日本赤十字社が開発した『認知症すごろく』は、認知症当事者の視点を体験し、理解を深めるツールとして注目されています。また、『ケアマネジャー体験ゲーム』は、架空のケースを元にケアプランを立てるロールプレイ形式で、介護に必要な意思決定を学べる教材として使われています。
これらはエンタメとしてのボードゲームではなく、教育・福祉の視点からつくられた“社会的ボードゲーム”といえます。しかし、前半で紹介したような市販の一般向けゲームでも、構造的には同じような“気づき”や“連携”を体感することができます。
世代間共創を体験する“仕組み”としてのゲーム
介護や福祉は、一方的に「与える側」「される側」に分かれるものではなく、本来は双方向の営みです。支える側が学び、支えられる側が貢献することもある。そんな関係性の“柔らかさ”を、ゲームは自然に教えてくれます。
たとえば、親子三世代で『花火(Hanabi)』をプレイすれば、「言わずに察する力」「周囲を信頼する力」が、年齢を超えて共有されます。『ITO』や『ワードバスケット』もまた、世代を超えて「感じること」「伝えること」のズレを笑いに変える場となり、共感の練習になります。
“遊び”は、人生を豊かにする営みです。そして、そこには人と人が関わるためのヒントが無数に詰まっています。
プレイから未来へ:「支える」を育てる文化へ
高齢化社会に必要なのは、制度だけではなく、“意識の文化”です。誰もが支え手になり、誰もが支えられる可能性を持つ。そのことを受け入れる柔軟さ、そして楽しさすら見いだせる感性が、これからの社会に求められています。
ボードゲームは、その“文化の種”になります。家族で、学校で、地域で、介護に関わるすべての人が、楽しみながら深く学ぶためのツールとして、ゲームが果たせる役割は大きいのです。
“支えることは難しい”ではなく、“支えることには技術がある”、そして“その技術は楽しく身につけられる”。そう気づいたとき、介護や共生のイメージはきっと変わっていくでしょう。