バニーキングダムで養う戦略力|うさぎ帝国を築く都市計画思考

都市を創る――それは、未来を描くこと。
それは一見、特別な才能が必要なようにも見えるが、実は私たちの日常の中にも“都市計画的な思考”は息づいている。家族の予定を組み、買い物リストを最適化し、プロジェクトを分担しながら進めるとき。そこには必ず、「空間」「時間」「資源」をどう使うかという、見えない戦略がある。

ボードゲーム『バニーキングダム』は、その力を楽しみながら磨ける作品だ。広大なマップに、自分のうさぎの帝国を築き上げていくこのゲーム。単なる陣取りとは違い、資源や建物、カードといった要素が複雑に絡み合い、ひとつの判断が未来に大きな影響を及ぼす。

このゲームをプレイすると、「あ、これは現実でも役立つ思考だ」と感じる瞬間が何度もある。では、私たちはバニーキングダムからどんな戦略力を学べるのか?そして、その力は、人生のどんな場面に活きるのか?今回は、「うさぎ帝国」に託された奥深い知性の物語を紐解いてみよう。


限られた資源から価値を生み出す構想力

「いま手元にあるもので最善を尽くす」力

バニーキングダムでは、毎ターン手札から1枚を選び、領土や建物の権利を獲得していく。しかし、欲しいカードが必ず手に入るとは限らない。ドラフト制のため、自分の選んだカード以外は他人の手に渡ってしまう。

つまり、「いま選べる範囲の中で、どう最大限の価値を生み出すか」という思考が求められるのだ。これは現実世界でも同じ。全てが整った状態で判断できることなど滅多にない。仕事でも家庭でも、情報が不完全で選択肢が限られた中でベストを出すことが求められる。

バニーキングダムでは、その訓練が自然とできてしまう。プレイ中、「このカードを選んで未来に賭けるか、いま確実に点を取るか」という判断を何度も迫られることで、選択に対する柔軟性と現実的な感覚が磨かれていく。


フクハナのボードゲーム紹介 No193:バニーキングダム

「点ではなく面で考える」空間的視野

このゲームでは、得点は“面”の広さと“資源の多様性”の掛け算で決まる。つまり、ただ広げるだけではダメで、多様な資源をバランスよく集め、かつそれらをつなげて配置することで初めて得点になる。

ここで必要になるのは「点」ではなく「面」で物事を捉える力。これは都市計画にも通じる視点であり、また人間関係やプロジェクト設計でも不可欠な感覚だ。

「この人との関係は点として繋がっているだけか?」「このアイデアは、全体の構造の中でどこに活きるか?」といった俯瞰的思考が、ゲームの中で体感的に養われていく。


戦略を“今と未来”で編み直す柔軟性

変化する状況の中で戦略を再構成する

バニーキングダムには「秘匿目標カード」という不確定要素もある。最初に立てた戦略通りにいかないことも多く、常に状況を読みながら柔軟に戦略を組み替える必要がある。

これは現代社会において、極めてリアルな能力だ。計画は立てることよりも、“修正し続けること”のほうが難しい。イレギュラーが起きた時にパニックにならず、冷静に“軌道修正”できるかどうかが、成果の大きな差になる。

バニーキングダムは、そうした「修正可能な思考の枠組み」を育てるゲームでもある。未来の予測と現在の状況のあいだを行き来しながら、計画を“生きた構造”として扱う感覚。それは、どんな人生の場面にも応用可能な知性のひとつだ。

チームでも個人でも活かせる“帝国戦略”

リーダーシップとは「配置の妙」である

バニーキングダムを一緒にプレイした仲間と振り返ってみると、「あのタイミングであのカードを選んだのはうまかったね」「自分の領土をどう広げるか、ちゃんと考えてたんだな」といった言葉が出てくる。それはまさに、他者から見た“戦略的思考の評価”だ。

この感覚は、組織やチームでのリーダーシップにもつながる。人の配置やプロジェクトの優先順位をどう考え、どこに力を集中すべきか。その判断が後になって評価される、という構図はよく似ている。

特に重要なのは「限られた資源(人・時間・情報)のなかで、どう構造的に判断するか」という視点。バニーキングダムでは、それを遊びながら体感できる。誰がリーダーとして適切かというより、どうリーダー的思考を共有するかに気づける点でも、このゲームは優れている。

“干渉”と“協調”のバランス感覚

このゲームには、他人の領地を邪魔するような直接的攻撃はない。けれど、あえて同じ場所のカードを取ってライバルの拡大を止めたり、共有の資源を先に押さえたりといった“間接的な干渉”が存在する。

このような、過度な攻撃性を排しつつも戦略的にぶつかり合う構造は、心理的安全性のある組織づくりのヒントにもなる。他人を蹴落とすのではなく、自分の立ち位置をどう調整しながら共に成長するか。その“競争と共創の境界”を見極めるバランス感覚が、プレイを通して自然に育つのだ。


結び|うさぎの王国から、わたしの世界へ

現実は、もっと戦略的にデザインできる

うさぎたちが広大なマップに王国を築いていく様子を見ていると、ふと気づく。自分の人生にも、こんなふうに「全体を見渡して設計する目」が必要なのではないか?と。

仕事の選び方、時間の使い方、人との関係づくり。私たちはいつも、“今ある手札”から未来をつくっている。けれど、目の前の選択ばかりに気を取られていると、思いがけず遠回りしてしまうこともある。

バニーキングダムは、そのことを優しく教えてくれる。戦略は、特別な人だけが持つ才能ではなく、「視野を広げ、変化に対応し、今あるもので意味をつくる力」だと。

そしてなにより――楽しい。笑いながら、驚きながら、自分の思考のクセに気づき、世界の見え方が少しずつ変わっていく。この遊びが、心と頭のリズムを整えてくれる。

そう考えると、うさぎの王国は、遠いファンタジーの世界ではない。そこには、私たちの中に眠っている“構想力”と“創造力”が、確かに息づいている。

バニーキングダムで遊ぶたびに、きっとこう思うはずだ。
――「現実のマップも、自分で描きかえていいんだ」と。

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