街は、突然完成するものではない。
それは、ある日誰かが投げた一つの“さいころ”から始まるのかもしれません。
AIと人間が共に何かを創り出す時代。情報処理や自動化が進むほど、「どこに配置するか」「何を組み合わせるか」「今、何を優先するか」といった選択の重みは、人間に委ねられるようになっています。
ボードゲーム『ブルゴーニュの城』は、まさにそんな“選択の練習台”です。
サイコロで制限された行動から最適なタイルを選び、個人ボードに都市・家畜・鉱山などを敷き詰めていくこのゲームは、単なる箱庭構築ではなく、“自分という都市”の在り方を問い直す装置でもあります。
今回は、ランダム性と戦略性のバランスに優れたこの名作ゲームを通して、
AI時代における選択・配置・共創というテーマを、人生や組織論の視点から読み解いていきます。
ブルゴーニュの城とは何か？｜構築と選択の美学
「できること」ではなく「今、やるべきこと」
『ブルゴーニュの城』の特徴は、ダイスによって毎ターンの行動が制限される点にあります。
一見すると“運ゲー”のように思われがちですが、実際は「限られた選択肢の中から、最大価値を引き出す」極めて戦略的な思考を要求されます。
これは、現代の働き方にも似ています。
与えられた条件下で、どの行動が最も価値を生むのか？
「なんでもできる」が通用しない今、“できること”の中から“やるべきこと”を見抜く目が問われています。
ブルゴーニュの世界では、その一手が都市の未来を決める。
まるで、日々の意思決定が人生の設計図を変えていくように。
ランダム性と戦略性の絶妙な共存
サイコロという“運の力”に振り回されながらも、先読み・計画・柔軟な対応力が勝敗を分ける。
このランダムと構造の“間（あわい）”こそが、ブルゴーニュの最大の魅力です。
そして、この構造はAIとの共創にも通じます。
AIが示す提案や条件は、時に「運」に近い形で人間に突きつけられます。
しかし、それをどう組み合わせ、どう活かすかは人間の意図次第。
ランダム性は混乱ではなく、“人の意図を試す舞台”なのだと、ブルゴーニュは教えてくれます。
タイルに映る“人生の配置”｜何を、どこに置くのか？
個人ボードは“自分の世界”
ブルゴーニュでは、各プレイヤーが独自の個人ボードを持ち、それぞれ異なる都市構成を目指します。
ここには、他人との直接干渉がほとんどありません。
競争はあれど、“自分の世界をどう築くか”が最も重要になります。
この構造は、自己設計・ライフデザインという観点で極めて示唆に富んでいます。
他人の成功パターンを真似るのではなく、自分にとっての「心地よい都市（人生）」をどう設計するか。
外の競争に巻き込まれることなく、内なる設計に集中する勇気が求められます。
“どこに置くか”が未来を変える
同じタイルでも、配置する場所によって得点・ボーナス・連鎖がまったく異なります。
これは、日常の選択──「このタイミングで、この場所で、この行動を取る」ことの重要性を体感させてくれます。
たとえば、仕事での発言タイミング。家庭での小さな声かけ。創作における表現の位置取り。
どれも、「置く場所」が違えば、意味も影響も変わる。
人生の細部にこそ、大きな変化の種があるという感覚を、ブルゴーニュは繰り返し教えてくれます。
中世都市に見る“共創モデル”｜干渉なき協働の可能性
他者との“間接競争”が生む緊張と共振
ブルゴーニュでは、全員が共通の場（中央ボード）から資源を取り合います。
その中で、直接的に妨害することはありませんが、他人の動きを見て「今これを取らないと」「次の手が制限されるかも」といった緊張感が生まれます。
これは、現代の協働型プロジェクトに酷似しています。
他人の意思を尊重しながらも、自分のリソースを確保する。
干渉しない協働、調和的な緊張が存在するのです。
誰も攻撃しないのに、競争が成立している
興味深いのは、「相手の行動を見て自分の行動を決める」ことが中心でありながら、
誰も他人の都市に直接“手を出す”ことがない点です。
これは、「信頼と予測に基づいた共創」の理想形とも言えるでしょう。
今のAI時代においても、他者の意図を読み、空気を共有しながら、あえて干渉せずに最適化していく力が重要になっています。
選択と配置のリーダーシップ｜ダイスに委ね、意図で動く
制約があるからこそ、意図が問われる
「何でもできる」ではなく、「今ある手の中で何を選ぶか」。
この問いは、ブルゴーニュに限らず、現代社会における行動の本質です。
AIの台頭により、データや選択肢がかつてないほど溢れた今。
むしろ「選びきれない」「先延ばししてしまう」といった感覚が、多くの人の中に漂っています。
そんな時こそ、“ダイス”という制限が導いてくれるのです。
「今、これしかできない」その状態を前提にしたとき、人はようやく**“自分の意図”にアクセスしはじめる**。
ブルゴーニュは、私たちに「あなたは、この状況で、どのように配置する？」と問いかけてきます。
この構造は、マネジメントやリーダーシップにおいても応用が利きます。
限られたリソース・状況・人材の中で、いかに全体最適を志向し、次の一手を選ぶか。
そこにこそ、“意図のあるリーダーシップ”が宿るのです。
消極的選択ではなく、“連鎖の起点”を選ぶ
ブルゴーニュでは、ある配置が次の連鎖を生むことがあります。
「このタイルを置けばボーナスで次の行動が増える」「ここに配置すれば連続得点が生まれる」など。
この仕組みは、仕事や創作のなかでの“仕掛けの設計”に通じます。
今ひとつの行動を、単独で終わらせるのではなく、他の要素と結びつけて“連鎖”を生む視点。
しかもそれは、最初に一見地味なタイル（行動）を選んだ者にだけ開かれる可能性でもあるのです。
“派手な一手”ではなく、“未来をつなぐ静かな布石”。
それが選べるようになると、人生の盤面もまた、滑らかに転がり出すでしょう。
実生活に活かす“都市戦略”｜職場・家庭・創作の配置思考
職場での配置＝役割の見直し
私たちは日々、無意識のうちに“配置”されながら生きています。
部署、役割、プロジェクト、上司との距離、他者との関係──
ブルゴーニュはそれらを「どこに、何を、どんな意図で配置するか？」という視点に変換してくれます。
たとえば、メンバーが自分の得意な位置にいるか？
今期のチーム構成が、連鎖を生むように設計されているか？
一人ひとりが、自分のボードに何を置こうとしているのか？
そうした問いを持てば、職場という都市もまた、有機的に育っていくのです。
家庭や人間関係＝タイルの重ね方を変える
家庭や恋人、友人との関係にも、無数の“タイル”が日々置かれています。
会話、共通体験、沈黙、家事分担、メッセージ──
それらを「適切な場所」に「意図を込めて」配置できているかどうかで、関係の質が変わります。
たとえば、忙しいときの「ありがとう」の一言。
相手が落ち込んでいるときの“そっと寄り添う沈黙”。
どちらも、タイルの“置き方”で感情の伝わり方が変わるのです。
関係性もまた、都市のように構築され、維持され、変化します。
“自分と相手の配置関係”に意識的になることで、
ブルゴーニュの盤面が“日常の優しさの地図”に見えてくるかもしれません。
創作やプロジェクト＝自分ボードに“何を増やすか”
創作活動やプロジェクトにおいても、「いま何を取り入れるか」「どこに配置するか」は重要な問いです。
ブルゴーニュは、「すぐに得点にならないタイル」も多く扱います。
すぐには効果が出なくても、後々大きく花開く準備タイル。
これは、創作におけるスキル習得、インプット、下調べ、仕込みのようなもの。
“見えない貯金”を重ねていけるかが、長期的な成長や変化を生む鍵になります。
自分の盤面（人生・創作）に、今どんなタイルを置こうとしているか。
それは、どこにどう繋がっていくのか。
そう考える時間そのものが、すでに「未来への配置」になっているのです。
結び｜“都市を育てる心”を持ち歩く
『ブルゴーニュの城』が語るのは、
戦うことでも、勝つことでもなく、
育てること、整えること、つなげることです。
さいころの偶然に導かれ、タイルの連鎖が始まり、
いつしか美しい都市が静かに完成している──
それは、誰かと共に在る人生そのものではないでしょうか。
今この瞬間、私たちの目の前にもサイコロが転がっています。
出目は選べないけれど、何を選び、どこに置くかは、私たち次第。
AIと共に都市を築く時代、必要なのは完璧な計画ではなく、
**「いま、ここに、何を置くか」**という小さな問いの積み重ねです。
あなたの都市には、今日、どんなタイルが加わるでしょうか？