「全員の意見を取り入れたいけれど、話がまとまらない」
会議の空気が重くなり、最終的には一部の人の意見に押し切られて終わる──そんな経験はありませんか?
とくに都市の再開発や地域のまちづくりでは、住民、行政、開発業者など多様なステークホルダーの利害が交差し、話が前に進まないことが多々あります。合理的に話し合えば合意できる…そんな理想とは裏腹に、感情・信頼・立場の差異が複雑に絡み合い、たびたび“停滞”が生まれるのです。
こうした合意形成の困難さは、実はボードゲームの中でも生々しく体験することができます。
遊びながら、なぜ合意が難しいのか、どうすれば前進できるのか──そんな問いと向き合えるゲームの世界を、今回はご紹介していきます。
なぜ合意形成はこんなにも難しいのか?
利害が「見えているのに合わない」ことの苦しさ
多くのボードゲームは、プレイヤー間の交渉や利害の調整を前提にしています。
たとえば『ディプロマシー』のようなゲームでは、同盟を結びながらも、裏切りや駆け引きが常に渦巻いています。また『レジスタンス:アヴァロン』や『ワンナイト人狼』のような正体隠匿系では、情報格差によって意思決定が非常に難しくなります。
こうした構造は、再開発の現場とよく似ています。誰が本音を言っているのか、どこまでが“本気”なのか──目の前の利害は見えていても、裏にある感情や背景が見えないことで、合意は遠のいていくのです。
「正しさ」と「納得感」は、別物である
ゲームでは、最適解が存在しても、それが全員にとって“納得できるか”はまた別の問題です。
たとえば、効率的な戦略を提案しても、他のプレイヤーが「自分の意見が無視された」と感じれば、協力関係は一気に崩壊します。
これは現実のまちづくりにも通じます。データや専門知識が正しくても、住民の「置いてけぼり感」がある限り、プロジェクトは失敗します。
つまり、合意形成には“ロジック”以上に“感情の折り合い”が必要なのです。
一度壊れた信頼は、簡単には修復できない
ボードゲームの中で一度裏切られると、次の交渉が極端に難しくなる。これは人間心理の自然な防衛反応ですが、現実でも同じです。
「前の開発のときも、説明と違ったよね」「また約束が守られないかも」──そうした“過去の記憶”が、今の話し合いに影を落とします。
合意形成とは、信頼を基盤に積み上げていく建築作業のようなもの。
ゲームの中でも、いったん崩れた関係をどう再構築するかは、大きなテーマになります。
再開発の葛藤を“模擬体験”できるゲームとは?
近年、都市計画や合意形成をテーマにしたボードゲームがいくつも登場しています。
たとえば『メトロポリス』という仮想都市開発ゲームでは、住民の要望と開発者の利害が交錯する中で、交通網や商業ゾーンの配置を協議しながら進めていきます。プレイヤーはそれぞれ異なる立場を持ち、あえて意見がぶつかる構造になっているため、利害の対立と調整を「安全に」「繰り返し」体験できるのが特徴です。
また、教育現場や行政で使われている『まちづくりシミュレーション』系ゲームもあります。たとえば、「自分は住民代表」「あなたは市長」といった形でロールを設定し、再開発の議論をゲーム化。
こうすることで、感情的な衝突ではなく、“構造的な難しさ”を客観的に見つめられるようになるのです。
対立を超える“選択肢の拡張”という視点
合意形成における最大のジレンマは、「AかBか」の二者択一に陥ること。
「道路を通すか、通さないか」「立ち退くか、残るか」といった単純化された対立は、合意の可能性を狭めてしまいます。
ボードゲームの設計思想には、“選択肢を増やす”という知恵があります。
たとえば『カタンの開拓者たち』のように、貿易や資源の交渉によって、単なる奪い合いではなく“第三の道”を見出すことが可能になります。
再開発においても、「通さないけど、地域を活性化する別の案」「立ち退くけど、再定住のプランを組み込む」といった柔軟な提案が鍵になります。
合意とは、対立の先にある“創造”なのだということを、ゲームは教えてくれるのです。
結び:合意は「着地点」ではなく「プロセス」
再開発やまちづくりにおける合意形成は、正解のある問いではありません。
それぞれの立場や願いがぶつかり合いながら、時間をかけて“十分に語り尽くす”中でしか、納得は生まれません。
ボードゲームは、この“語り尽くす”というプロセスを疑似体験させてくれます。
議論のジレンマ、意見のねじれ、信頼の揺らぎ、そして希望──それらすべてを織り込みながら、私たちに合意形成とは何かを「感じさせてくれる」場を提供してくれるのです。
ゲームの中で見つけた知恵や感覚は、現実のプロジェクトでも生きてきます。
合意はゴールではなく、共に進むための“関係性の再設計”。
だからこそ、「遊びながら練習する」ことには、思った以上の価値があるのです。
あなたの街の再開発も、誰かの利害を超えて、“共創”の選択肢を増やす一歩から始まるかもしれません。
ボードゲームは、その扉を開くカギのひとつです。