人は、どれほど合理的に考えても、運を完全にはコントロールできません。けれど、その“予測不可能さ”にこそ、美しさと興奮が宿る瞬間があります。ボードゲーム「キュビトス(Cubitos)」は、そんな確率と判断、スピードと思考の交差点に、私たちを立たせてくれるゲームです。
色とりどりのダイスが織りなす選択の連続。回すたびに笑いと焦りが交錯する不思議なリズム。その背後には、確率の罠と可能性の地図が広がっています。このゲームが投げかけてくるのは、「どこまで攻めるか?」「いつ撤退するか?」という、人生にも通じる問い。
この記事では、「キュビトス」のプレイ体験を通して、確率という不確実な要素にどう向き合うかを考えます。楽しさの裏にある思考の構造、選択の心理、そしてそれを乗りこなす創造性について、あなたと一緒に探っていきたいと思います。
確率は敵か、味方か?|キュビトスに学ぶ意思決定のフレーム
リスクを取るか、安定を選ぶかの葛藤
キュビトスは、ダイスを使ったレースゲームですが、単なる運ゲーではありません。毎ターン、プレイヤーは自らの判断で「何個ダイスを振るか」を決める必要があり、その選択は、スピードアップかバースト(失敗)かという結果に直結します。
このプロセスはまるで、限られた情報しか持てない状況下で意思決定を迫られるビジネスや人生のよう。あと1歩進みたい気持ちを抑えるか、それとも思い切って前に出るか。確率を味方につけるには、直感と理性、そして“自分を信じる力”が必要なのです。
【キュビトス】ダイスを使ったデッキ構築で一発逆転ありレースに挑戦 / TGG ボードゲーム
失敗の蓄積が導く成功のサイクル
ゲームを進めていくうちに、「このタイミングならバーストしても大丈夫」「次のターンはリスクを抑えよう」といった“学び”が自然と積み上がっていきます。それはプレイヤー自身の感覚と経験に根ざした“確率との付き合い方”の成長です。
面白いのは、失敗の記憶が「自分の中の計算式」を更新してくれること。単純な成功/失敗という二分法ではなく、失敗を経験値として活かすことで、次の判断がより洗練されていく。これは、創造的な学習のプロセスそのものです。
直感と数理の共鳴で生まれるリズム感
キュビトスでは、目の前の状況に応じて、瞬時に複数の要素を組み合わせて判断しなければなりません。持っているダイスの特性、出た目、ライバルの位置、自分の資源、残りの距離…。それらを瞬時に読み取る力が試されるのです。
ここで活躍するのが、ロジックだけでなく“直感”です。繰り返しプレイするうちに、無意識のうちに最適な選択ができるようになる感覚は、まさに「確率のリズム」に乗っている状態。これは論理と感性の協奏であり、AIにはまだ真似できない人間の強みでもあります。
選択とスピードの交差点|チーム・組織での意思決定に生かす
スピードと正確さのジレンマを可視化する
チームや組織で仕事をしていると、「素早く決断すべき状況」と「慎重に情報を揃えるべき状況」の線引きが難しいことがあります。キュビトスのゲーム体験は、そうした“スピードと精度のジレンマ”を視覚的・感覚的に体感させてくれます。
ダイスを振るたびに感じる「あと一歩…でも失敗するかも」という揺らぎは、実社会における判断ミスのリスクや、決断のタイミングの重要さを想起させます。この体験を共有することで、チーム全体の「判断力の感度」を高めることが可能になります。
メンバーの特性を活かす選択肢の設計
キュビトスでは、プレイヤーが使うダイスや能力は毎回変わります。つまり、「同じルールでも、状況が変われば選択肢も変わる」という柔軟性が求められるのです。これはチームにおいても同様で、固定された役割や判断軸だけでなく、状況や相手に応じた“組み合わせの再設計”がカギになります。
例えば、あるプロジェクトではリスクを取れる人が前に出て、別の場面では慎重なタイプがサポートに回る。そのダイナミズムを、ゲームの体験を通して自然と学ぶことができます。キュビトスは、個々の“判断の癖”を見抜くワークショップにも応用できるゲームです。
「行動しながら学ぶ」ことへの安心感
心理的安全性とは、間違いを恐れずに行動できる空気感のことです。キュビトスでは、バーストしても再起不能にはなりませんし、他プレイヤーも同じように失敗を経験します。そのため、ゲームの中で自然と「失敗を笑える関係」が生まれやすくなります。
この構造が職場やチームにも応用できるとしたらどうでしょうか? たとえば、プロジェクトの初期段階で「とりあえずやってみる」文化を育てるために、こうしたゲーム的アプローチを取り入れるのは有効です。キュビトスは、失敗を前提にした意思決定のトレーニングとしても機能します。
結び|確率を受け入れるという知恵
キュビトスをプレイしていると、「どれだけ完璧に準備しても、最後は運」という現実に何度も直面します。それは、私たちの日常や仕事にも通じる真理です。だからこそ重要なのは、確率を完全に支配しようとするのではなく、「不確実性の中で動ける力」を育てること。
ボードゲームは単なる娯楽ではなく、こうした“知恵”や“感覚”を体に刻み込む装置になり得ます。特にキュビトスのように、戦略と確率、スピードと選択が交錯するゲームは、思考と感性の両方を刺激し、結果だけでなく“選択の過程”に価値を見出す力を養ってくれるのです。
不確実な時代において、自分の判断を信じて一歩踏み出す感覚。それを、安全な遊びの中で練習できる場が、今ますます求められています。キュビトスは、そのための入り口になるかもしれません。