──「ここではない、どこか」ではなく
「ここで、誰と、どう在るか」
それが、人生という名のゲームにおける、真の“陣取り”なのかもしれません。
中世スペインを舞台に繰り広げられるボードゲーム『エルグランデ』。その盤面には、ただのエリア支配ではなく、「集団の中でどう動くか」「他者をどう読むか」「自分の意図をどこに置くか」という、現代の私たちにも通じる本質的な問いが散りばめられています。
情報が飽和し、リーダーシップや協働の在り方が変容しつつあるAI時代。私たちは誰かと一緒に生きることを、再び“選び直す”必要に迫られています。
エルグランデは、その選択を問い直すツールになり得るのです。
今回は、陣取りの名作『エルグランデ』を通じて、
現代の「共創の場」に活かせる戦略思考と、
“見えない盤面”を読み解く感性について深掘りしていきましょう。
エルグランデとは何か？｜ゲームの概要と基本構造
領土をめぐる“静かなる戦い”
『エルグランデ』は、プレイヤーがスペインの大貴族（グランデ）となり、各地域に自らのコマ（カバレロ）を送り込んで、影響力＝得点を競うゲームです。戦争ではなく、配置とタイミング、そして“王の所在”が勝敗を左右するのが特徴です。
この「静かなる支配」は、会社やチームにおける“影響力ゲーム”と非常に似ています。
声の大きさではなく、どのタイミングで、どの場に、どれだけの存在感を示すか。まさに、戦略と直感の混在する世界です。
“王の位置”が意味するもの
エルグランデにおいて、王がいる地域には新たにコマを送ることができません。つまり、「権力の中心に最初からいること」は、必ずしも得ではないという構造です。
むしろ、王の周辺＝権力の外縁をどう動くかが勝敗を決めるのです。
これは、現実のリーダーシップにおいても同様。表のポジションにいなくても、裏から場を動かす者がいます。
“王の位置”というゲーム的制約が、むしろプレイヤーに自由な戦略思考を与えている点が興味深いのです。
盤面に見る心理戦の構造｜人はなぜ“隣”に動くのか？
情報は全員にある、それでも動きは割れる
エルグランデは、ほぼすべての情報が公開されたゲームです。それでもなお、プレイヤーの行動は予測できず、盤面は混沌とします。
なぜか？
それは「戦略」だけでなく「心理」が動かしているから。
情報よりも、“相手がどう動くだろう”という予測と疑念が選択を揺らがせるのです。
この構造は、プロジェクトの進行やチームの意思決定にもそのまま当てはまります。
データが揃っていても、最後は人の感情や信頼、予測で動く。
エルグランデは、情報と感情の“境界”を可視化するゲームです。
影響力の“重ねがけ”が意味すること
同じ地域に複数のプレイヤーがコマを重ねることで、そのエリアでの勝敗が決まります。
ただし、あまりに重なりすぎると得点が割れ、結果的に損をすることもあります。
これは、リソースの“集中と分散”に通じる教訓です。
例えば職場で「みんなが同じタスクに群がる」と、手薄な部分が生まれる。
逆に、「自分だけがいる場」に価値がある時もある。
エルグランデの盤面は、組織やチームにおける“人的配置の戦略”をシンプルに表現しています。
個人と集団のバランス｜“孤立しない強さ”とは
大多数に混じるか、少数で勝負するか
プレイしていると、「ここは強豪が多いからやめておこう」「今なら一人で得点できる」などの判断が生まれます。
この“判断の揺らぎ”が、まさに現代社会そのものです。
集団に属しながらも、独自の動きを取る勇気。
孤立しないまま、自分の手番を活かす知性。
エルグランデでは、個人と集団のバランスを**リアルに体験する“模擬社会”**が立ち上がるのです。
「空白地帯」こそがチャンス
誰も目を向けていないエリアにコマを置くことで、大きな得点を狙える場面もあります。
これは、現実における「ニッチ」「ブルーオーシャン戦略」と通じます。
他者が見ていない領域をどう見つけるか。
そして、「誰もいない＝孤独」ではなく「誰もいない＝可能性」と見做せるか。
こうした価値転換が、AI時代の“選択の鍵”となるのです。
戦略思考の応用｜“見えない得点”をどう読むか？
点数化されない価値の扱い方
エルグランデでは、ゲーム終了時にしか得点が明らかにならないエリアもあります。
この“見えない得点”は、まさに現実世界の「将来的な信頼」や「協力関係」と似ています。
例えば、今すぐ評価されない行動。地味なサポート役。影の調整。
それらは表面化しにくいけれど、蓄積されていくと、思わぬかたちで“大逆転”を生む可能性を持っています。
重要なのは、可視化された評価だけを見て動かないこと。
「この一手は、いずれ盤面にどう響くか？」という“因果の想像力”が、人生における中長期戦略を支えてくれます。
ルールに“縛られる”のではなく、“活かす”
どんなゲームにもルールがあるように、社会にも見えないルールや構造があります。
しかし、ルールを「制限」として受け取るか、「枠組みの中で工夫する遊び」として捉えるかで、戦略の自由度は大きく変わります。
エルグランデの制約──王の位置、手札の枚数、配置制限──それらを“どう料理するか”が勝負の鍵です。
これは現実でも同じ。
会社の制度、時間、立場の制約があるからこそ、人は知恵を働かせ、創造的な抜け道や調整を生み出すのです。
共創の視点から読み解く｜リーダーシップの新しいかたち
リーダー＝中央に立つ者、ではない
エルグランデにおいて「王」は象徴的な存在ですが、それ自体が得点に直結するわけではありません。
むしろ、王の“影響下にない場”をどう読むかで勝敗が決まります。
これは、「リーダーとは常に前に出る者」という古い定義に対するアンチテーゼです。
場を読む力・他者を尊重する余白・タイミングを見極める目──
こうした“静かなるリーダーシップ”が、今の時代にこそ求められています。
「あえて譲る」ことで盤面が回り出す
時に、自分の点を稼ぐよりも、他者に譲ることで全体の流れが良くなる。
これはエルグランデでも起こる現象です。
特に複数人の戦略が絡み合う中では、「敵を作らない」「過剰な対立を避ける」ことが、長期的な勝利に繋がります。
仕事や人間関係でも同じ。
瞬間的な勝ちよりも、全体最適を見て行動することが、本当の“強さ”になる。
この視座を持てる人は、自然と人を惹きつける存在になります。
エルグランデで鍛えられる“人生力”とは？
判断の根拠を内側に持つ
エルグランデでは、「他人の手番でどう変わるか？」という不確定性が常につきまといます。
だからこそ、自分の判断の基準を外に置いていると、翻弄され続けてしまう。
大切なのは、**「自分はなぜこのエリアを選んだのか」**という問いに、自分なりの答えを持つこと。
AI時代の情報過多の中で、“選択の軸”を自分の中に持つことは、極めて重要なスキルです。
エルグランデは、プレイヤーにこう問いかけます。
「あなたの選択は、誰の目を気にして決めたのか？それとも、自分の意図に従ったのか？」
誰とプレイするかで、世界が変わる
最後に、エルグランデの真の魅力は「プレイヤーとの関係性」にあります。
同じルールでも、違う人とやれば、全く異なる盤面と空気が生まれます。
これは、人生にもそのまま当てはまります。
仕事も、家庭も、創作も──「誰とやるか」で、世界は変わる。
だからこそ、盤面の上だけでなく、“共にプレイする人間そのもの”を信頼し、読み合い、楽しむ力が必要です。
エルグランデを通じて、私たちは“人と共に創る現実”を、体験的に学べるのです。
結び｜“選択の地図”を持ち歩こう
エルグランデが教えてくれるのは、「戦う」ことではなく、「選ぶ」ことの深さです。
誰と、どこで、どう在るか。
自分のコマをどこに置くかは、自分の生き方をどこに置くかに似ています。
ボードゲームという仮想の世界で、私たちは人生の“構造”を模倣し、練習し、再発見することができる。
その発見を、どう日常に持ち帰るか。
答えはシンプルです。
今この瞬間、自分の“配置”を問い直すこと。
無意識に置かれた位置ではなく、意図して選んだ位置に立つこと。
あなたは、今、どのエリアに自分のコマを置いていますか？
──それが、Life Nexus Labが提示する“新しい共創のはじまり”です。