異文化に触れる力を育む|共感を学ぶボードゲーム

異なる文化、価値観、言語。
それは、日常生活の中ではなかなか触れる機会の少ない「異質な他者」への扉かもしれません。
けれど今、私たちはAIと共に働き、世界中の人と瞬時につながる時代を生きています。多様性はすでに、遠い国の話ではなく、目の前の現実。そんな時代に、自分とは違う誰かを理解し、共に場をつくっていく力は、何よりも大切な“人間力”になっています。

この「異文化理解」や「共感力」といったテーマを、硬い議論ではなく、もっと楽しく・やわらかく体験できる方法があります。
そう、ボードゲームです。
単なる娯楽ではなく、「遊びを通じて他者を知る」体験。特に欧州発のゲームや協力型のゲームは、多様な考え方や表現の違いを“対話しながら楽しむ”設計になっており、そこには今の社会に必要なヒントが詰まっています。

今回は、ボードゲームが育む「共感力」と「異文化理解」について、遊びながら気づく“ちがいとつながり”の面白さに注目していきます。


多様な価値観に触れるということ

異文化は「外国」だけではない

「異文化理解」と聞くと、海外旅行や国際交流を思い浮かべるかもしれません。
けれど実際には、家庭と職場、営業と開発、理系と文系といった身近な違いもまた「文化の違い」です。
価値観、言葉の使い方、当たり前の感覚――それらのズレが、しばしば誤解や衝突の原因になります。

ボードゲームの面白さは、こうした“前提の違い”に気づかせてくれるところです。
例えば、ルールの解釈や戦略の立て方、勝ち負けの重視の仕方は、人によって驚くほど異なります。
「なんでそんな手を選んだの?」という一言から、相手の背景や思考パターンに気づくことも多いのです。

違いを面白がる“遊び”の力

ボードゲームは、あえて「ルールの中で違いを見せ合う」場です。
そのため、たとえ価値観が違っても、対話しながら共通の目的(ゲームの勝利や場の盛り上がり)に向かう中で、自然と受け入れ合うプロセスが生まれます。

「正解を出す」よりも、「一緒に場を楽しむ」ことが目的となることで、違いは“脅威”から“発見”へと変わるのです。
この姿勢は、職場の会議やプロジェクトにもそのまま応用できます。
違いを「受け入れる」ためには、まず「違いがあることに気づく」ことが必要。そしてそれを、安全な場で経験できるのがボードゲームなのです。


共感と非言語的コミュニケーション

「言葉にしない理解力」のトレーニング

共感力というと、言葉でのやりとりに注目しがちですが、実は「非言語」の要素も非常に大きいのです。
表情・しぐさ・沈黙・目の動き……これらの微細なサインに気づく力は、職場の人間関係や対人支援、チーム作業で大いに役立ちます。

この力を鍛えるのにも、ゲームは優れた教材です。
たとえば『ザ・マインド』のような非言語ゲームでは、プレイヤー同士が“感じ取りながら”タイミングを合わせて行動します。
そこにあるのは、静かな集中と、相手への信頼。うまくいったときの一体感は、言葉を超えた共鳴そのものです。

ことばの“ズレ”から見える多様性

逆に、言葉を使う系のゲーム――たとえば『ディクシット』や『ジャストワン』のような連想系ゲームでは、「同じ言葉でも、見ているイメージが全然違う」ことに驚かされます。
これはまさに、異文化体験そのもの。

「こんな解釈するんだ!」「このヒントは逆に伝わらないかも…」といった気づきから、他者の感性や文化的背景への興味が芽生えます。
これもまた、ボードゲームならではの“遊びながら育つ異文化理解”のかたちです。

遊びから学ぶ共感と異文化理解の実践応用

職場での多様性マネジメントに活きる

組織や職場には、性格、役職、専門分野、ライフステージなど、さまざまな“文化的違い”があります。
こうした多様性があるほど、意思疎通や協働にはひと工夫が必要になります。
そこで活きるのが、ボードゲームを通じて培われた「共感力」や「他者の思考様式を想像する力」です。

たとえば、あるゲームで「慎重な行動をとるプレイヤー」がいたとき、それを“優柔不断”と見なすか、“情報収集型”と捉えるかで、対話の質が変わります。
こうした認知の柔軟性は、チームマネジメントや1on1の場面でも極めて重要です。

また、ゲームで培われる「ルールの中で他者と折り合う力」は、職場でのガイドラインや合意形成のプロセスにも似ています。
決まりの中で最大限に創意を発揮し、誰かとぶつからずに共に成果を上げる感覚は、まさに“協働”そのものです。

教育や家庭での感性育成ツールとして

子どもや学生にとって、価値観の違いを言語化し受け入れるのは、大人以上にハードルが高いものです。
しかし、ゲームで「自分と違う行動や発想」に触れることで、「こんな見方もあるんだ」と自然に理解が広がります。

特に協力型ゲームでは、「チームで目標を達成する喜び」を通じて、他者と関わる心地よさや信頼感を実感できます。
これは、共感や異文化理解といった“社会性”を、体験から学ぶ貴重な機会です。

家庭内でも、ゲームを通して子どもの個性を理解するきっかけになります。
「勝ちにこだわるタイプ」「ルールの整合性を重んじるタイプ」「場の雰囲気を重視するタイプ」など、遊びの中にその子らしさが現れます。
その理解が、親子関係や教育方針の調整にもつながっていきます。


共感は“違いの中に橋をかける”技術

相手を理解するには、自分の前提を揺らす勇気がいる

共感とは、単に「同情する」「賛同する」ことではありません。
相手の立場に立ち、その世界の見え方を“体感的に想像してみる”こと。
これは、非常に高度な知的・感情的能力です。

ボードゲームの中では、他人の動きを読んだり、相手の価値観を想像して手を選ぶ瞬間が多くあります。
その繰り返しによって、自然と「違う前提を持つ相手の立場」に立つ力が育ちます。

この「前提を揺らしてみる姿勢」が、異文化理解やダイバーシティの本質に他なりません。
異なる価値観を前にして、自分を守るのではなく、橋をかけに行く――そんな姿勢こそ、共創の時代に求められる感性です。


結び:遊びの中に、未来の関係性のヒントがある

ボードゲームは、娯楽の枠を超えた「関係性の実験場」です。
違う人と、違う前提で、同じ場を楽しむという経験。
それは、小さな文化の交差点であり、共感と理解が生まれる出会いの場です。

AIやテクノロジーの進化が加速する中で、逆に“人間ならではの力”が問われています。
それは、他者を感じ取り、理解し、共に未来を描く力――つまり、「共感と共創の力」です。

ボードゲームを通して、私たちはその力を“遊びながら”磨くことができます。
「こんな考えもあるんだ」「この人の視点、面白いな」と思えた瞬間、すでに私たちは“異文化理解者”への一歩を踏み出しているのです。

今日、誰かとゲームを囲む時間があるなら、ただの娯楽以上のものを、そこに見つけてみてください。
それは、未来の職場・家庭・社会に通じる、小さな共創の訓練かもしれません。

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