人との関係が複雑化するAI時代──論理やスキルだけでは語れない「感情」の力が、今あらためて注目されています。感情知性(EQ)という言葉を耳にしたことはあるでしょうか?それは、感情を“感じる”だけでなく、“理解し”“使いこなす”能力です。では、そんな高度な力はどうすれば育つのでしょう?そのヒントは、意外にも「ボードゲーム」の中にあります。
感情知性は「気づき」から始まる
感情と向き合うトレーニングとしてのゲーム
ボードゲームは、ただの遊びではありません。勝敗がある以上、悔しさ・怒り・嬉しさ・焦りといった感情が必ず動きます。その感情に気づき、受け止め、適切に表現するという一連のプロセスこそ、EQの核です。特に競争系や交渉系のゲームでは、感情の扱いがプレイ全体に大きな影響を与えます。
ゲームの中で体験する感情は、架空でありながらリアルです。だからこそ、人は素直に反応しやすく、それを観察・調整するという“実験”が可能になるのです。
自己理解と他者理解を同時に深める場
EQは自己理解と他者理解、両方の能力を必要とします。ボードゲームでは、「なぜ今、あの人はあんな行動を取ったのか?」と考えたり、「この発言は相手にどう受け止められるだろう?」と内省したりする場面が多くあります。
それはまさに、EQの筋トレ。自分の感情だけでなく、相手の感情や立場を尊重する姿勢が、自然と養われるのです。言葉だけではなく、態度や表情、沈黙すらも“読み取る力”が培われていきます。
安心できる場が感情表現を促す
EQを育てるには、「安心して感情を表現できる場」が必要不可欠です。ボードゲームは、その舞台として非常に優れています。なぜなら、ルールという共通の枠組みがあり、その中で感情を動かしても「ゲームの一部」として受け入れられるからです。
失敗してもいい、怒ってもいい、泣いてもいい。すべてが「プレイのうち」であり、終わった後に笑って語り合える──そんな経験の積み重ねが、人の内側に「感情を使っても大丈夫」という肯定感を育てていきます。
感情を扱う技術は、どこで鍛えられるのか?
感情の見える化と共感力の育成
EQ(感情知性)は、「感情を感じる力」ではなく、「感情を扱う力」と言い換えると、その本質が見えてきます。ボードゲームという場では、怒りや焦り、喜びや嫉妬など、普段は抑えている感情が、無意識のうちに表に出てきます。
勝ちたい、認められたい、負けたくない──そんな気持ちは、どんなプレイヤーも感じているものです。そこで試されるのは、自分の感情に気づき、それを意図的にコントロールすること。そして、相手の感情にも目を向け、どう関わるかを選ぶこと。EQの高さとは、感情に巻き込まれず、それを言葉にし、行動に変える力だと言えるでしょう。
また、ルールや状況に応じてプレイヤーが見せる感情の変化を観察することで、相手の心理を読むトレーニングにもなります。相手の表情、言動、行動パターンに注目することで、無意識に共感力を鍛える土壌が育まれていくのです。
感情の対話と「安心してぶつかれる場」
ゲームという心理的安全性のフィールド
ボードゲームの醍醐味の一つは、心理戦や交渉にあります。「この人は何を考えているんだろう?」と感じながらも、その答えを正面からぶつけて探る──これは、普段の生活ではなかなかできない体験です。
たとえば、カタンやパンデミックのようなゲームでは、協力と同時に衝突が起こりがちです。思い通りに動いてくれない仲間、利己的な行動を取るプレイヤー、予想外の事態に動揺する自分。そんな状況を通じて、プレイヤーは自然と「どう感情を伝えるか」「相手の思いをどう受け止めるか」といったEQの応用練習をしているのです。
結び|感情知性は“遊び”の中でこそ磨かれる
EQ(感情知性)は、抑えるべきものでも爆発させるものでもありません。観察し、言語化し、意図を持って扱うものです。ボードゲームという遊びの中では、自然とその練習ができてしまうのです。
ゲームの勝ち負けよりも大事なこと──それは、どんな感情を味わい、どう対処したかという経験そのもの。感情の揺らぎがあるからこそ人は深まりますし、そのプロセスを共に歩める人との関係は、かけがえのないものになります。
ボードゲームは単なる娯楽ではありません。感情の動きという“見えないカード”を使って、人間力を育てるフィールドなのです