木漏れ日の差し込む幻想的な森の中で、ウサギやリスたちが一生懸命に街をつくっていく──。
ボードゲーム「エバーデール」は、まるで絵本の中に入り込んだような美しい世界観と、想像以上に奥深い戦略性を併せ持った作品です。
最初はかわいい動物たちに癒されながら始まるのですが、気がつけば「あと1資源足りない!」「この順番でカードを出せば…!」と、頭をフル回転させている自分に驚くはずです。
このゲームは、ただの“癒し系”では終わりません。
限られた資源、手番、時間、そしてカードのコンボ──それらをどう組み合わせて“街”を発展させるかという思考は、まさに“経営感覚”そのもの。
この記事では、そんなエバーデールを通じて得られる思考法や気づきについて、深掘りしていきます。
資源と時間のバランス感覚を育てるゲーム
「今使うか、後にとっておくか」の思考訓練
エバーデールでは、木材・樹液・小石・ベリーなど、4種類の資源を使って建物を建てたり、動物を招いたりします。
ですが、初期の労働者(ワーカー)はわずか2人。少ないアクション数で何を優先すべきかを考える必要があるのです。
この「限られた資源をどう配分するか」「何を優先し、何を我慢するか」という思考は、日々の仕事や生活にも直結します。
たとえば、「今、時間を使ってこの資料を作るべきか、それとも情報収集を優先すべきか」というビジネス判断や、「今週は出費を抑えて来月の旅行に備えよう」という生活設計──
これらはまさにエバーデールで鍛えられる“先を読む力”と“我慢と決断のバランス感覚”です。
エバーデール『ルール説明』【初めてでも簡単】
“投資的アクション”が後の展開を左右する
序盤にあえて得点にならないカードを出すことで、後半に大きなリターンを得る。
そんな「布石」としてのアクションが勝敗を分ける場面も多くあります。
たとえば「農場」を早めに出しておけば、「農夫」のカードをコストゼロで配置できるなど、シナジー(相乗効果)を見越した構築が重要になります。
この感覚は、将来の成果を見越して「今、何に時間や労力を投資するか」を考える視点にも通じます。
すぐにリターンがない行動でも、意味を見出して行動できるかどうか──その“投資感覚”を楽しく育めるのが、エバーデールの魅力のひとつです。
「多様性」と「相乗効果」の設計思考
エバーデールの街は、同じ構成になることがほとんどありません。
ランダムに配られるカード、季節ごとに変化するプレイ環境、他プレイヤーとの競争。
これらが複雑に絡み合い、毎回まったく違う“経営戦略”が求められるのです。
一つの戦術だけでは通用しない──。
だからこそ、多様な選択肢を柔軟に活かし、状況に合わせた“相乗効果”を生み出す感性が磨かれます。
これはまさに、現代のビジネス環境にも通じる重要な能力です。
「美しさ」と「調和」が生む心理効果
美意識がもたらす没入と集中
エバーデールの魅力のひとつに、「目に見える美しさ」があります。
カードのイラスト、ボードに立ち上がる“エバーツリー”、やわらかな色使い──それらすべてが、プレイヤーの感情に働きかけ、ゲーム体験を“心地よいもの”に変えてくれます。
これは、単なる装飾ではありません。
視覚的な美しさは、脳に安心と集中を促し、より深くゲームの世界に入り込む助けとなるのです。
実際、整ったデザインや自然なモチーフが与える影響は心理学でも研究されています。
混乱よりも秩序、粗さよりも丁寧さ、美しさはプレイヤーの精神に“調和”というフィードバックを与えてくれるのです。
そしてこれは、会議室や教室、プロジェクトの場にも応用できます。
整った環境、配慮ある言葉、過不足のない進行──それらが「安心して発言できる空気」を生み出すように、エバーデールは“場づくり”のヒントを教えてくれるのです。
競争と共存が両立する不思議な空間
エバーデールは“勝ち負け”のあるゲームです。
得点を競い合い、カードを奪い合い、ときには他の人の行動に先んじる必要もあります。
けれど、なぜかこのゲームでは、プレイ後に不快な空気が残りにくい。
そこには「他人を蹴落とすよりも、自分の街をどこまで美しくできたか」に焦点があるからだと考えられます。
対人ゲームでありがちな「奪い合い」や「足の引っ張り合い」よりも、「自分の選択と構築の結果」がメインになる──
それが、競争でありながら“共存”できる安心感につながっているのです。
これはまさに、現代の組織やチーム運営に求められる感覚ではないでしょうか。
「成果を出しながら、誰かを否定せず、場の調和も保つ」──そんな生き方のモデルが、エバーデールの森にはそっと息づいています。
エバーデールから学べる“感性ベースの経営力”
数字だけでなく「感覚」で資源を見る力
私たちは、日々さまざまな“リソース”を扱っています。
時間、お金、人間関係、集中力、体力…。それらは、目に見えない“資源”です。
エバーデールでは、ベリーや樹液といった“物理的な資源”を扱いますが、その配分の感覚は、リアルな意思決定にも通じるものがあります。
・今、エネルギーを使うのか
・先に備えるのか
・ここで引くのか、踏み込むのか
これらは、すべて“感覚”で判断されるもの。
そして、その感覚を磨くのに、ボードゲームほど安全で、楽しい訓練法はありません。
創造と選択の“リハーサル空間”としてのボードゲーム
エバーデールのようなボードゲームには、ひとつの特性があります。
それは、「創造の過程を可視化できること」です。
自分が選んだカード、置いた労働者、つながったコンボ──すべてが、最後に形として残ります。
そこには「自分の思考がどのような成果をもたらしたか」が見えるのです。
これが、現実には見えにくい「選択の因果関係」を理解する助けになります。
仕事、生活、人間関係──結果が出るまで時間がかかり、フィードバックも曖昧な現実に比べて、ゲームは非常に明確です。
だからこそ、「どんな思考や態度が、どんな結果を生むのか」の練習ができるのです。
結び:静かな森から、現実へ持ち帰るもの
エバーデールの世界では、誰も声を荒げません。
木々が揺れ、川が流れ、小動物たちがせっせと働く──静けさと集中の中にある、知的で創造的な営み。
私たちはふだん、余裕なく、忙しなく、結果を急ぐ中で生きています。
けれど、エバーデールを通してふと気づくのです。
「ああ、世界はもう少し丁寧に生きられるかもしれない」
「判断は、もっと感覚と調和に委ねてもいいかもしれない」
「仕事や生活も、森の街のように愛せたら…」
エバーデールは、癒しの仮面を被った“思考と対話の場”なのです。
読者のあなたが、次にチームや家族、あるいは自分自身と向き合うとき──
ほんの少し、エバーデールの静けさを思い出してくれたら嬉しいです。