私たちが世界を理解するとき、それは“ありのまま”というより、“たとえ”を通じて行われていることが多い。
「人生は旅だ」「会社は船だ」「上司はラスボスだ」……こうした比喩は、単なる言い回しではなく、世界の構造を“別の形”で捉えなおす知恵なのです。
この“比喩的思考”は、実はただのセンスや感性ではなく、「鍛えられるスキル」でもあります。
そして、その最も自然なトレーニング環境が「ゲーム」、とりわけルールとプレイヤーが交差する“ボードゲームの場”なのです。
今回は、「なぜ比喩が社会を見る力になるのか」「どうすれば比喩的思考を鍛えられるのか」をテーマに、遊びと現実の境界線を行き来しながら、思考の筋肉を伸ばしていきましょう。
比喩とは“異なる世界をつなぐ回路”である
「わかる」とは、「別の何かにたとえられる」こと
人は何かを理解するとき、言語だけではなく“イメージ”を使っています。
それは「この状況、あれに似てるな」と無意識に比較するプロセス。つまり、理解とは**「比喩による置き換え」**にほかならないのです。
たとえば、「上司との関係がピリピリしてる」と聞けば、多くの人が“地雷原を歩く”ような緊張感をイメージします。
ここには、「関係性=空間」「感情=爆発性のある物体」という“構造の転写”が働いています。
つまり比喩的思考とは、「今の状況を、別の枠組みで再構築する力」。
そしてそれは、現実の複雑さを整理し、次の一手を見出すための“認知の武器”になるのです。
ボードゲームは「比喩で構成された世界」である
ボードゲームとは、現実を模した“象徴的世界”です。
農業(アグリコラ)、貿易(カタン)、帝国運営(世界の七不思議)、疫病制圧(パンデミック)……いずれもリアルな活動を「ルール」「カード」「マップ」に置き換えることで、抽象的に再現された社会が構築されています。
つまり、ゲームに触れること自体が、
「社会=比喩構造で理解する」訓練になっているのです。
また、プレイヤーの役割も象徴的です。
リーダー、交渉者、投資家、破壊者……その行動様式を観察することで、「社会での立ち位置」や「人間関係の構図」も、自然と比喩的に読み取る習慣が育ちます。
「たとえ」からはじまる、新しい気づき
比喩的に考えるとは、「これはあれと似ている」という遊び心のある視点を持つこと。
この視点があると、現実の見え方は一気に変わります。
たとえば、職場を『ドミニオン』にたとえれば、「手札(リソース)」をどう管理し、「デッキ(人脈や習慣)」をどう構築するかが問われる世界に見えてきます。
また、『宝石の煌き』的に見れば、「先に取られるリスク」と「将来価値の投資」のバランス感覚が、仕事の段取りにそのまま重なってくる。
このように、比喩は“見えない構造を言語化する道具”でもあり、同時に“思考の柔軟体操”でもあるのです。
社会を読み解く“たとえの目線”|比喩で見ると、現実が動き出す
比喩的思考は「チームの共通言語」になる
複数人で何かを進めるとき、価値観や経験の違いから、会話がすれ違ったり、議論が堂々巡りになったりすることがあります。
そのとき、間に入って“たとえ”を持ち込める人は、まるで通訳のように場の空気を整えることができます。
「今の状況って、将棋で言えば“詰みを防ぐための一手”みたいなものだよね」
「この人は“タンク役”としてダメージを引き受けてくれてる」
こうした言い換えは、抽象度を上げて物事を見るだけでなく、共感や笑い、安心感も生み出します。
比喩は理屈を越えて、チームの空気を軽やかにほぐす効果もあるんです。
ボードゲームで自然に育つこの感覚は、会議・授業・プロジェクトなど、あらゆる“共創の場”で大きな力を発揮します。
「社会をたとえる」ことが、批評と希望の入口になる
比喩的思考は、単なる言葉遊びではなく、現実への洞察を深める方法でもあります。
たとえば、「今の教育って“プレイヤーのいないゲーム”みたい」とたとえることで、システムの欠陥や形式主義に気づくことができます。
あるいは、「この組織は“ダイスの目で動く”ような不確実な構造をしてる」と言えば、なぜ意思決定が曖昧なのかが見えてくる。
こうした比喩は、現実の批評にとどまらず、「じゃあ、どう設計し直せばいいか?」という創造の起点にもなります。
つまり、比喩とは“今とは別の見方”を持ち込む思考のイノベーションなのです。
社会に希望を持つとは、現実の形を変える“別の視点”を持つこと。比喩はその最初の一歩なのです。
比喩的思考を育てる3つの習慣
では、比喩的思考を育てるにはどうすればいいのでしょうか?
ゲームや日常を通じて、気軽に取り組める3つの習慣を紹介します。
1. 日常を「たとえ」で記録する
日記やSNSに「今日の出来事=〇〇みたいだった」と書く習慣をつけてみましょう。
例:「今日の仕事は“リソース回収ゲーム”だった」「子どもとのやり取りは“カードバトル”に近い」など。
比喩を使うことで、客観視と遊び心が生まれ、感情の整理にもつながります。
2. ゲーム中に「現実で例えるなら?」と考える
ボードゲームをプレイしているときに、「この構造って現実で言えば何?」と問いかけてみましょう。
カタン→交渉術、ドミニオン→仕事のルーチン構築、アグリコラ→人生設計など、ゲーム=比喩の宝庫です。
3. 他者の言動を「役職」や「カード」に置き換えてみる
「この人はヒーラー的存在」「今の発言は“トラップカード”だったな」など、遊び心を持って観察することで、人間関係が“盤面”として見えてきます。
これにより、怒りや混乱の感情も“プレイの一部”として処理しやすくなります。
結び|世界はすでに「隠されたルール」と「たとえ」で満ちている
私たちが住むこの世界は、表面上は現実で満ちているように見えて、実のところ、その見え方はすべて“言葉”と“比喩”でできています。
「仕事」「評価」「成功」……それらが何を意味するかは、人それぞれ違う“たとえ”で認識されているのです。
だからこそ、「自分がどんな比喩で世界を見ているのか」に気づくことは、自分の認識そのものをアップデートする第一歩です。
そしてボードゲームは、その“気づき”を遊びながら体感できる、最高のトレーニング場。
比喩的思考は、現実を柔らかくし、未来を描き直すための“秘密の武器”。
次にゲームをするとき、少しだけ“比喩の目”を持って盤面を眺めてみてください。
そのとき、あなたの見ている世界が、静かに別の姿を現すはずです。