パンデミックに学ぶチーム形成の鉄則

「どうすればチームがうまく機能するのか?」
これは、組織に関わるすべての人に共通する問いです。そしてその答えは、数字や目標だけでは見えてきません。むしろ、信頼・安全・相互理解といった“見えにくい要素”が、チームの本当の力を左右します。

その本質を、遊びながら体験できるのが協力型ボードゲーム『パンデミック』です。
このゲームでは、プレイヤー全員が共通の目的を持ち、役割分担と情報共有を通じて世界を救うという構造になっています。対戦ではなく、協働による達成感が鍵となるゲームです。

本記事では、『パンデミック』という協力型ゲームを手がかりに、チームビルディングにおける「心理的安全性」「役割の明確化」「対話の質」の重要性を考察していきます。
共創の時代に必要な“チームの動かし方”を、一緒に探っていきましょう。


協力型ゲームに学ぶ“チームの構造”

共通の目的が“関係性”を生む

パンデミックでは、プレイヤー全員が「感染症の拡大を防ぐ」という共通の目的を持っています。
勝利条件も敗北条件も全員に共通しているため、「自分の勝ち」ではなく「チームとしての成功」が主眼になります。

これは、現代のチームワークにとって非常に大切な視点です。
部署や職種が違っても、「このプロジェクトが何を目指しているのか」「お客様にどんな価値を届けたいのか」といった共通のビジョンがあるだけで、関係性の質が大きく変わります。

目的を明確に共有することは、ただの情報共有ではありません。
それは、「自分がここにいる意味」と「他者とのつながりの軸」を提供する、心理的な基盤なのです。

パンデミック ルール動画 by社団法人ボードゲーム

役割の違いが“機能性”を生む

パンデミックには「科学者」「通信司令員」「衛生兵」などの固有役職があり、それぞれが異なる能力を持っています。
誰か一人が万能なわけではなく、役割が違うからこそ補い合えるという設計が特徴です。

これはチームにおける「ジョブクラフティング(役割の自律的設計)」にも通じます。
「誰がどんな視点を持っているか」「どこに得意があり、どこに支援が必要か」を理解することで、表面的な分担を超えて、機能としての一体感が生まれます。

重要なのは、「違いを活かす」前提で動くことです。
お互いの力を借りることを当然とし、“弱さを開示できる文化”こそが、強いチームの基盤になるのです。

情報共有が“判断力”を高める

パンデミックは完全協力型ゲームであり、基本的には情報をすべて公開した状態で進行します。
これにより、判断が一部の人に偏ることなく、全員が全体像をもとに思考することが可能になります。

チームでも同じです。情報が隠されていたり、偏っていたりすると、判断が誤りやすくなり、責任の押し付けや不信感が生まれがちです。
しかし、情報がオープンに共有されていれば、「今なにが起きているか」「どこに問題があるか」を全員で見つめることができます。

このようなオープンな情報の流通環境が、心理的安全性の前提になります。
対話が怖くないチームは、情報を共有することにためらいがありません。
そしてその安心感こそが、迅速でしなやかな判断力につながっていくのです。


後半パートでは、実際の職場やプロジェクトチームにおいて、「どのように協力型の構造を導入し、心理的安全性を高めていくか」に具体的に迫っていきます。

現実のチームで活かす“パンデミック的構造”

誰かが欠けても回る“構造的な安心感”

パンデミックのゲーム中、誰か一人の動きが失敗しても、すぐに他のプレイヤーがフォローに入れる仕組みがあります。
これは、「誰かがミスしてもチームが崩れない」という構造的な安心感を生み出しています。

現実のチームでも、このような“相互補完性”が大切です。
「この人しかできない」ではなく、「誰かがサポートできるよう設計しておく」ことで、個々の負担が減り、心理的にも落ち着いて行動できるようになります。

そのためには、属人化を減らし、タスクの透明化と引き継ぎのしやすさを設計することが必要です。
「自分がいなくてもチームが動く」構造を持つことは、チームメンバーにとっての自由と信頼の両方につながるのです。

エラーや失敗が“学びの素材”になる

パンデミックでは、最初のプレイではクリアできないことがほとんどです。
しかし失敗することで、「次はこの順番で動こう」「この役割の使い方が鍵だったね」といった改善点が見えてきます。
この“繰り返しながら学ぶ設計”こそが、チームに必要な学習環境です。

実際の職場でも、ミスが“責任”や“評価”に直結してしまう環境では、誰もチャレンジしなくなります。
それに対して、失敗を許容し、振り返りの文化を持つチームでは、メンバーが自発的に学び、試行錯誤するようになります。

パンデミックのように、「1回の勝ち負けではなく、チームとしての成長」を前提とすることで、仕事の質も感情の安定も高まっていきます。

対話が“リアルタイムの意思決定”を変える

ゲーム中、プレイヤー同士が話し合いながら「今なにをすべきか」「誰がどこに動くべきか」を調整していきます。
これは、まさに“リアルタイムの意思決定”であり、実務におけるチームの意思疎通にもそのまま応用できます。

たとえば、朝礼やミーティングで「自分の状態を共有する」「今困っていることを出す」だけで、チームの動き方は大きく変わります。
その際、「評価される/されない」の視点を手放し、“共に動くための情報”として言葉を扱う空気感が必要です。

パンデミックの世界では、それが自然に行われています。
だからこそ、話し合い=正解探しではなく、状況を整える行為として、もっと軽やかに機能するのです。


協力型チームを築く3つの実践アプローチ

1. “見えない貢献”を評価する仕組み

協力型ゲームの特徴は、目立たないサポート行動が非常に重要である点です。
たとえば、自分のターンを使って他人の移動を支援する行動は、直接的な勝利点にはなりませんが、チームの成功に直結しています。

この視点を現場に持ち込むなら、「成果」だけでなく「貢献のプロセス」も見つめることが大切です。
たとえば、進行を支えたファシリテーター、気配りを欠かさなかったメンバー、意見を引き出したサポーターなど、見えにくい役割にも光を当てる文化が、チームの信頼感を育てていきます。

2. “役割の回転”で視点を交換する

パンデミックでは、ゲームごとに異なる役職を体験することが可能です。
これは、「同じゲームでも役割が変われば全く別の視点になる」ことを体感させてくれます。

現実のチームでも、意図的に「違う立場を経験する」「他部署と視点を交換する」といった“ロールシャッフル”の機会をつくることで、共感力と戦略的な思考の両方が育ちます。

これは、単なる異動や研修ではなく、「立場を変えて同じ目的を見る」実践的な対話なのです。
この視点移動が、心理的安全性の厚みを生む基盤になります。

3. “対話の余白”を設計に組み込む

協力型のチームには、計画通りに進める力と、状況を見て修正する余地の両方が求められます。
パンデミックも、「先を読む計画」と「突発的な対応」のバランスが勝敗を左右します。

このような“修正可能な計画”を現場に取り入れるには、「対話の余白を構造に組み込む」ことがポイントです。
たとえば、定例会議に「フリートークの時間」や「お互いの小さな違和感を共有する5分間」を設けることで、意思決定の質が飛躍的に高まります。

つまり、「話し合える構造を持っているかどうか」が、チームの柔軟性と創造性を決定づけるのです。


結び|共にプレイするように、共に働く

“協力”とは、信頼のリズムをつくること

協力とは、単に作業を分担することではありません。
それは、互いの違いを理解し、共通の目的のもとに“リズムを揃えていく行為”です。
パンデミックは、そのリズムを遊びの中で感じさせてくれます。

この感覚を仕事の中にも取り入れていくことで、チームは単なる集団から、信頼の循環が生まれる“生きた組織”へと変化していきます。

AI時代のチームに必要なもの

AIが情報処理を担う時代、求められるのは「速さ」ではなく「関係性の質」です。
判断力、共感力、柔軟性――それらは、協力型ゲームの体験を通して、遊びながら育てることができる能力です。

私たちの働き方にも、遊びのような“共創のセンス”が必要とされています。
パンデミックのように、共通の危機に向き合いながら、対話し、支え合い、時に笑い合える。
そんなチームこそ、これからの時代に強く、やさしく機能するのではないでしょうか。

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