私たちは、1人では変えられない局面に日々直面しています。職場のプロジェクト、家族の課題、社会の危機──そこには必ず他者が関わっていて、自分だけの正解が通用しない場面ばかり。そんな時代に必要なのは「協働力」、そしてチームの中で“必要な時に必要な役割を果たす”というリーダーシップの技術です。
この感覚をリアルに体験できるのが、ボードゲーム『パンデミック』。未知のウイルスが世界に広がるなか、プレイヤー全員が協力しながら治療法を見つけ、感染拡大を食い止めるこのゲームは、「自分が何をすべきか?」を問いかけてきます。今回はこの『パンデミック』を題材に、協働とリーダーシップを育てるためのヒントを探っていきましょう。
チームの力は“役割”の理解から始まる
1人で戦えない状況が前提
『パンデミック』では、プレイヤーはそれぞれ異なる役職(科学者、研究者、衛生兵など)を与えられ、単独ではクリアできない構造になっています。これは、現実の仕事や社会活動とよく似ています。どれだけ優秀な人でも、全てを1人でこなすことはできません。
この前提があるからこそ、「自分の役割は何か」「他者の強みをどう活かすか」を考えることが自然と促されます。これは、チームワークを円滑にするうえで欠かせない視点です。
パンデミック ルール動画 by社団法人ボードゲーム
強みを活かし、弱みを補う
科学者は治療法の発見に特化しており、衛生兵は感染を一気に除去できる。誰がどの場面で動くかを相談しながら決めていくうちに、「あえて自分が一歩引く」「相手を生かす選択をする」という発想が育ちます。
こうした思考は、会社のチーム内での動きや、家族・仲間との協働においてもそのまま応用できます。自分の強みを知り、他人の強みを活かすために自分がどう動くか──ゲームを通じて体感できるこの考え方は、まさに現代に必要な“共創”の土台です。
情報共有の重要性を学ぶ
『パンデミック』ではカードの内容や感染状況をオープンにしながら、誰がどこで何をするかを計画していきます。これは「心理的安全性」が高い場づくりの練習でもあります。
誰かが情報を抱え込むと状況が悪化する。だからこそ、互いに情報を開示し、柔らかく話し合う。そうした“安心して話せる関係性”が、リーダー不在でも動ける柔軟なチームを生むことにつながります。
相互理解と信頼の“設計”が成果を変える
役割分担だけでは足りない?信頼が鍵になる
「パンデミック」では、プレイヤーごとに役割(リーダー、科学者、研究者など)が与えられ、それぞれ異なる能力を持ちます。役割分担は効率的な行動を促しますが、それだけでは勝利できません。なぜなら、どのタイミングで誰がどこへ動くか、誰に何を託すかといった“見えない連携”が結果を左右するからです。
現実の職場でも、肩書きや担当だけでなく「この人なら任せられる」「この人となら動ける」といった信頼が不可欠。ゲームを通じて私たちは、目に見えない信頼関係こそがチームを前進させることを体感します。
情報の共有と合意形成が成果を生む
パンデミックでは、プレイヤーが手札や計画をオープンに話すことが推奨されています。それは、限られたリソースを最大限に活かすための“知の共創”のプロセスです。
実社会でも、プロジェクトの停滞や衝突の多くは、情報の非対称性や合意形成の失敗に起因します。ゲームでの経験は、「黙って我慢」や「自己判断」ではなく、「対話し、共有し、決める」重要性を教えてくれます。
“勝ちたい”を“勝たせたい”に変える力
リーダーシップは、単に先頭に立つことではありません。ときにはサポート役に徹し、ときには他者を輝かせる判断をする柔軟さが求められます。
パンデミックにおいても、自分が勝つという概念は存在せず、「全員で勝つ」が唯一のゴールです。そのために、他者の視点を理解し、全体の流れを俯瞰し、必要とあれば自分の役割を調整する。まさに現代型リーダーシップのシミュレーションが、ここにあります。
チームは“勝つための装置”ではなく、“学びの場”である
人間関係を“戦略資源”として扱ってみよう
パンデミックのような協力ゲームを通じて感じるのは、勝敗以上の“気づき”の価値です。チームで動くことの難しさ、感情のぶつかり、相手を信じる難しさ──それらはすべて、現実の職場や家庭でも見られるものです。
このゲームが教えてくれるのは、他者はコマでも道具でもなく、“共に目的地を目指す旅の仲間”であるという感覚。信頼・理解・対話といった要素が、戦略に匹敵するほどの力を持っているのです。
ゲームで体験することで、感覚が“血肉化”する
理屈ではわかっていても、実際の場面でうまく振る舞えない。そんな経験は誰にでもあるでしょう。だからこそ、体験を通して学ぶことの価値が際立ちます。
パンデミックのような協力型ボードゲームは、安全な場で「実験」としてリーダーシップや信頼、役割の交換を試せる場です。結果が悪くても命や評価を失うことはない。けれど、その気づきや反省は、現実の行動に確実に作用します。
結び|“チームで動く力”は誰でも育てられる
遊びながらリーダーシップを育てるという視点
パンデミックをプレイすると、協力する楽しさと同時に、難しさにも直面します。うまくいかないもどかしさ、思い通りに動いてくれない他人、焦り──それでも、チームで進む経験が自分を変えてくれる。
だからこそ、こうしたゲームは“遊び”を超えた“人間理解の装置”です。組織でのリーダーシップ研修、チームビルディング、家庭での協力感覚など、活用の幅は想像以上に広がります。
ゲームはただの娯楽ではありません。私たちの中にある“共創力”を目覚めさせ、次の一歩を踏み出す勇気をくれる──パンデミックは、そんな気づきに満ちた教科書なのです。