日常の小さなトラブルから、仕事や人生の大きな選択まで──私たちは常に“問題解決”という名のゲームをプレイしています。
ですがその力を、どこで、どうやって育てるのか?と問われると、少し戸惑うかもしれません。
近年注目されているのが、「ボードゲームを通じた問題解決力のトレーニング」。一見、娯楽に見えるその世界には、戦略・柔軟性・観察力・判断といったスキルが凝縮されているのです。
この記事では、ボードゲームがどのようにして“遊びの中で思考力を育てる装置”になっているのかを、具体例とともに紐解いていきます。
問題解決力とは何か?
状況を把握し、目的に向かって動ける力
問題解決力とは、状況を冷静に把握し、課題の本質を見抜き、最適な手段を選び実行する力です。
単に「正解を当てる」ことではなく、状況の中で判断し、仮説を立て、試行錯誤しながら“よりよい方向”を探していく一連のプロセスそのもの。
ボードゲームでは、プレイヤーが与えられた条件や資源、他者の動きを観察し、戦略を練っていきます。勝敗はもちろん、プレイの過程そのものが「問題解決の連続」です。
この“ゲーム的状況”は、まさに現実に近い模擬体験。そこでは、正解のない問いと、予期せぬ事態が常に待っています。
課題の発見から始まる“遊びの哲学”
特に優れたゲームには、「ゴールが明確だが、手段が多様」という特徴があります。
プレイヤーはその中で、失敗と成功を繰り返しながら、最適解を見つけ出していきます。
このように、問題解決とは「課題の存在に気づき、それを定義する」ところから始まるもの。
まさにこれは、企業のプロジェクト、家庭のすれ違い、個人の生き方など、あらゆる場面に応用できる“生きた力”と言えるでしょう。
ボードゲームが鍛える柔軟な発想力
固定観念を揺さぶる「ルールの中の自由」
ボードゲームには、ルールという枠があります。しかし、その中でどう動くかはプレイヤー次第。
同じカードを引いても、同じ盤面でも、選択の幅は無数に広がります。
この「決められた枠内での自由な選択」は、まさに創造的思考のトレーニング。与えられた前提をどう活かすか?という思考の柔軟性が磨かれます。
たとえば、「ディクシット」のような連想ゲームでは、抽象的なイラストにどんな意味を見出すかが勝負の分かれ目です。
ここでは「他人の視点」を想像し、「正解のない答え」を導く力が問われます。
変化への対応力と、試行錯誤を楽しむ姿勢
多くのボードゲームでは、予想通りに物事が進むことは稀です。他のプレイヤーの行動や運によって状況が大きく変わります。
その中で「プランB」を考え、リカバリーし、時には全く異なる戦術に切り替える柔軟性が必要です。
これはまさに、変化の激しい社会で必要とされる“適応力”そのもの。
失敗を恐れず、仮説を修正しながら進んでいく感覚が、「問題を解く」ことを“楽しみ”に変えていくのです。
ゲームで学ぶ対話力と状況判断
チーム戦で磨かれる“協働型問題解決力”
問題解決力は、必ずしも「一人で答えを導き出す力」ではありません。
とくに現代では、他者と意見を擦り合わせながら、最適解を導く“協働的な問題解決”が主流となっています。
その点、協力型ボードゲーム──たとえば『パンデミック』や『ザ・マインド』のような作品では、プレイヤー同士の会話が不可欠です。
全員が同じ目標に向かって動く中で、自分の役割を理解し、タイミングを読み、他者の考えを引き出す力が養われます。
これは、職場や家庭、地域活動といったリアルな場面でも活かせる、“関係性をベースにした問題解決”の練習といえるでしょう。
話す・聞く・考えるの循環を体得する
対話の力は、「言葉にする力」と「相手の意図を汲む力」の両方を含んでいます。
ゲームを通じて自然と発話の機会が生まれ、自分の考えを伝える練習になります。
また、限られた情報から他者の意図を読み解く場面も多く、観察力や空気を読む力も問われます。
こうした一連のやりとりの中で、「自分の考えを更新する柔軟性」も育つのです。
実社会にどう活かす?ボードゲーム的アプローチ
組織や教育現場での導入事例
最近では、企業の新人研修や学校教育の現場でも、ボードゲームが活用され始めています。
たとえば、論理的思考やチームビルディング、リーダーシップ研修の一環として『コードネーム』や『カタン』が使われることもあります。
実際に手を動かし、言葉を交わしながら問題を解決する体験は、単なる講義や座学とは比べ物にならないほど記憶に残るものです。
さらに、“間違えてもいい”“失敗しても笑える”という空気が、学びへの心理的ハードルを下げてくれます。
日常に“遊びの視点”を取り入れるコツ
必ずしも本格的なゲームを用意しなくても、「ゲーム的な考え方」は日常に応用できます。
たとえば、複雑な問題に直面したとき、「これはどんなルールのゲームだろう?」と自問してみると、視点が変わります。
役割分担、制限時間、資源配分、得点化──そんな“ゲームの要素”を現実に投影することで、事態が整理され、問題解決の糸口が見えてくるかもしれません。
結び|“考える力”は、遊びの中で育つ
問題解決力は、特別な才能ではありません。
日々の中で、「問いを立て」「状況を観察し」「工夫して動く」ことの積み重ねで、誰でも磨くことができます。
そしてその最適なトレーニング方法の一つが、ボードゲームという“遊びの場”。
そこには、楽しさと挑戦、他者とのやりとりが絶妙にブレンドされた、“思考のジム”が広がっています。
あなたも一度、ボードゲームを通じて「思考する楽しさ」に触れてみませんか?
その一手一手が、現実の問題を解く力へとつながっていくはずです。