立ち直る力とは「鍛えられる」ものなのか?
人生には予測できない失敗や挫折がつきものです。それは仕事でも人間関係でも、あるいは創作活動や育児のような日常の場面でも同様です。しかし、同じような状況でもすぐに立ち直る人と、心が折れてしまう人がいます。この違いはどこから生まれるのでしょうか?
最近、教育やビジネスの現場で注目されているのが「レジリエンス(resilience)」という考え方。つまり、困難な状況から回復し、再び前を向く力のことです。そして驚くべきことに、この“心の筋力”のようなレジリエンスは、ゲームを通じて鍛えることができるという見方が広がってきました。
試行錯誤が許される「安全な失敗空間」
負けても何度もチャレンジできる場
ボードゲームの魅力は、何度でも挑戦できることにあります。一度負けたとしても、次に戦略を変えれば違う結果が出る。ルールの中では、失敗は“学びの入口”なのです。実社会では、失敗はときに痛みや損失を伴いますが、ゲームの中ではむしろ歓迎されるべき経験です。
自分の行動と結果の因果を確認する
「なぜ勝てなかったのか?」「あの一手がまずかったのかもしれない」——ゲーム後の振り返りは、因果関係への洞察を促します。こうした“試行錯誤”の回数は、自分のクセやパターンを見つめ直す機会にもなり、実生活に転用できる思考力を育てます。
感情を処理する練習にもなる
負けることで悔しい感情が出てくるのも自然なこと。しかし、その感情を誰かにぶつけず、自分で整理し、次につなげていく。このプロセス自体がレジリエンスの練習になるのです。ゲームは楽しみながら感情のコントロールを体験できる絶好の“感情トレーニングジム”でもあります。
成功体験だけが成長ではない
小さな「うまくいかない」を味わうことの価値
現代は、成功体験ばかりが強調されがちですが、「うまくいかない体験」こそが人を育てます。ボードゲームのように“何度もやり直せる場”があるからこそ、失敗を通じて学ぶことの価値がわかるのです。
「正解のない問題」に向き合う力
ゲームによっては、答えが一つではなく、状況に応じて戦略が変わります。この“答えのない問題”に慣れていくことは、変化の激しい現代社会において必須の力となります。しかもそれを、遊びの文脈で鍛えられるのは非常に貴重です。
回復までの「間」を許容する環境
ボードゲームはプレイヤー同士の対話も重要です。勝っても負けても、すぐに“次の一手”に切り替えなくてはいけない。その切り替え力=回復力こそがレジリエンスの正体とも言えるでしょう。そして、プレイヤーが互いに尊重しあう空気があるからこそ、安心して失敗できる場が生まれます。
レジリエンスを鍛える環境の整え方
試行錯誤を肯定する“場”の力
人は失敗に対する許容度が高いほど、創造的に動けると言われています。これは個人の性格だけでなく、周囲の環境や文化の影響も大きいのです。たとえばボードゲームの中には、失敗しても何度でも再挑戦できるルール設計がされているものが多くあります。この「繰り返しの中で学べる構造」こそが、プレイヤーのレジリエンスを自然と育てているのです。
この構造は、現実の職場や家庭でも応用できます。失敗しても否定されず、むしろ「何を学んだ?」と問いかける文化があると、人は安心して挑戦を繰り返すことができます。心理的安全性がある環境は、個人のメンタルヘルスだけでなく、集団全体の創造性や問題解決力を高めます。
さらにゲームにおける“負け”の体験は、自尊心を壊すものではなく、次にどう活かすかを考えるきっかけとして機能します。この感覚を、日常に持ち込むことができれば、「うまくいかなかったこと」すら自分の糧になるのです。
自分の“立ち直り方”の癖を知る
レジリエンスとは、単に立ち直る能力ではなく、自分がどのように立ち直るのかを知っている状態でもあります。ボードゲームでは、プレイヤーごとに反応の傾向が異なります。すぐに別の戦略に切り替える人もいれば、一度立ち止まって振り返る人もいる。
こうした違いは、現実における“回復のスタイル”にも当てはまります。ある人は感情を言語化することで前進し、またある人は体を動かすことで心を整えます。大切なのは、自分に合った“再起動のスイッチ”を持っているかどうかです。
ゲームは、こうした癖や強みを安全に試せるシミュレーションの場。何度もやり直しができるからこそ、「自分にとって一番いい回復法」を探れるのです。そして、その方法はきっと、仕事や人間関係の中でも力を発揮するでしょう。
結び:ゲームで気づく「再挑戦する力」
自分の中の“根っこ”を信じる感覚
人生は、選択の連続であり、時に間違いもつきものです。でもそのたびに、「ここから立ち上がる力は、自分の中にある」と思えるかどうか。ゲームを通して、そんな感覚が育っていくのだと私たちは考えます。
失敗しても笑えること。やり直しがきくこと。もう一度、違うアプローチで挑戦できること。これらの経験は、心の土壌に“信頼”を育てます。他人ではなく、状況でもなく、自分自身に対する信頼です。
そしてこの信頼は、AIには真似できない人間の力の源です。どんな時代でも、“失敗から立ち直れる人”は前に進める。そのための技術として、ボードゲームという遊びの中に、未来へのヒントが詰まっているのです。