「社会性を育てたいけれど、何から始めればいいのかわからない」
そんな悩みを持つ保護者や教育者は少なくありません。
成績やスキルではなく、“人と関わる力”。
協力、共感、対話、自己調整、感情の共有……それらはすべて“見えにくいけれど生きるうえで不可欠な力”です。
そして、その力を最も自然に、楽しく育てられる方法のひとつが「ゲーム」です。
特に、ルールと人との関わりを前提としたボードゲームは、子どもから大人まで、社会性を“体験”として学ぶ場を提供してくれます。
今回は、「勝ち負け」を超えて、関係性の中で育つ社会性を、ゲームの中でどう培うか。
その教育的価値と実践のポイントを、具体的に掘り下げていきます。
社会性とは“人と共に生きる力”である
「社会性=マナー」ではない
「社会性」という言葉には、しばしば「ルールを守ること」「集団に適応すること」といったイメージがついています。
しかし、本質的な社会性とはもっと広く、**“他者と共に世界をつくる力”**です。
- 自分の気持ちを理解し、他者の気持ちにも気づける力
- 意見が違っても対話を続けられる力
- チームの一員として、目的に向かって行動できる力
こうした“関係性のスキル”は、テストでは測れません。
でも、人生の中で最も必要とされる場面で、静かに力を発揮します。
ゲームは“対人スキルの実験室”になる
ボードゲームは、ルールがあり、他者と共に場を共有しながら進む活動です。
つまり、常に「他者との関わり」を前提とした行動を要求されるのです。
たとえば:
これらのゲームを通じて、子どもも大人も、自然とこんなことを体験します:
- 他人の立場に立って考える
- 感情を表現しつつも冷静に話す
- 「うまくいかない」時に自分の行動を振り返る
それはまさに、社会で必要な力の縮図を、安全に繰り返し練習できる場なのです。
“勝ち負け”だけが目的ではない世界を知る
ゲームというと「勝ち負け」を想像しがちですが、ボードゲームの中には「共に成し遂げる」ことや「物語を共有する」ことが目的のものも数多く存在します。
たとえば:
- 『禁断の島』:協力して島から脱出する
- 『ディクシット』:抽象的な絵と言葉で感性を共有し合う
- 『ザ・マインド』:沈黙の中で“気持ちをそろえる”という目に見えない協調性を育てる
こうしたゲームでは、「誰かと一緒に何かをつくる」という感覚が芽生えます。
それは、社会性の中でも特に重要な“共感的共同体験”を生み出す要素です。
社会性を育む“遊びの設計”|教育・家庭・職場での応用法
家庭でできる“感情の橋渡し”としてのゲーム時間
子どもの社会性は、家庭の中でも自然に育てることができます。
その鍵は、「正しさを教える」ことではなく、共に体験し、気持ちを言葉にする時間を持つことです。
たとえば、ゲーム後にこんな問いかけをしてみましょう:
- 「今、どんな気持ちだった?」
- 「負けて悔しかった?それってどんな感じ?」
- 「どうしてあの手を選んだの?迷った?」
ゲーム中にはさまざまな感情が湧きます。
喜び、怒り、悔しさ、不安、そして時には笑いも。
それらを“一緒に振り返る”時間が、感情と行動を結びつけ、自己理解や他者理解の土台を築いていきます。
この過程を繰り返すことで、社会性の核となる「感情の自己調整」「言葉での共感」「視点の切り替え」が養われていきます。
教育現場での応用:遊びを“共創の訓練”へ
学校や学びの場では、ボードゲームを「評価されない時間」として位置づけることがポイントです。
子どもたちは、評価を気にする場面では本音を出しづらくなりますが、ゲームの場では“キャラクター”や“戦略”を通して素の反応が引き出されます。
- 「クラス内の関係性の見直し」
- 「他者理解・自己理解の触媒」
- 「グループ学習前の信頼づくり」
など、さまざまなフェーズで活用できます。
特に、『協力型ゲーム』や『感情を扱うゲーム』を選ぶことで、
「競争→分断」ではなく「協力→つながり」を自然に体験でき、学級全体の心理的安全性を底上げすることができます。
職場・研修での応用:役割と関係の“再編成装置”として
社会人にとっても、社会性は“空気”のような必須スキルです。
しかし、立場や上下関係、業務のルーチンの中で、人間関係が固定化されてしまうことも多い。
そんなとき、ボードゲームは“関係性を一時的にシャッフルする道具”になります。
たとえば:
- 普段発言の少ない人が、ゲーム内では発想力を発揮
- 上司が失敗して笑われることで、“弱さの共有”が生まれる
- チームメンバーがゲーム後に「素直に話せた」と感じる
これらはすべて、ゲームの中にある“安全な失敗”と“ルールによる平等性”が生んだ効果です。
ゲーム後に「今回のプレイで印象に残った人は?なぜ?」といった問いかけを加えることで、観察・共感・リーダーシップ評価の再設計も可能になります。
結び|“勝ち負け”を超えて、人と関わる力が育つ場所へ
ゲームの本質は、決して「勝つこと」ではありません。
それは“誰かと、何かを一緒に体験すること”にあります。
勝ち負けは、入口にすぎません。
その先には、
- 相手の表情を読み取る力
- 思い通りにならない感情を受け止める力
- 自分と違う視点に“なるほど”と頷く力
- 誰かと共に何かを築きあげる力
……そうした“見えないけれど、確かに存在する力”が、静かに育っているのです。
社会性とは、知識でも礼儀でもなく、「誰かと共に世界をつくる力」。
そしてその力は、ゲームという小さな世界の中で、
何度でも、何歳でも、楽しく、優しく、育て直すことができる。
次にゲームをするとき、あなたは何を育てたい?
勝つことの先に、どんな“つながり”を持ち帰りたい?
答えは、盤面の中にあるかもしれません。