テラフォーミングマーズで学ぶ戦略思考

火星という過酷なフロンティアを舞台にした『テラフォーミングマーズ』。そこでは、大気を作り、海を生み出し、緑地を広げ、企業の存続と繁栄を賭けた“壮大な事業計画”が展開されます。ただのゲームと侮るなかれ。このボードゲームには、ビジネスや人生に通じる「思考の訓練場」が詰まっているのです。

複雑なプロジェクトに直面する現代人にとって、このゲームが提供するのは「模擬的な体験の連続」です。限られたリソース、先を見据えた投資、他プレイヤーとの競合、変化し続ける環境…。これらをどう読み、どう選び、どう計画していくのか。そのすべてが、このゲームの中に凝縮されています。

では実際に『テラフォーミングマーズ』を通して、どのような力が育まれるのでしょうか?今回は、戦略と創造が交差するこのゲームを「思考の科学」として読み解いていきます。


思考の地図を描くゲームデザイン

戦略の優先順位づけと長期的視点

『テラフォーミングマーズ』では、毎ラウンドで得られる資源や選べるアクションが限られており、すべての計画を一度に進めることはできません。ここでは、「どこに集中し、何を後回しにするか」という判断が試されます。

例えば、大気圧を上げるプロジェクトを優先すれば得点には繋がりますが、それは他の得点源である緑地化のチャンスを犠牲にすることになります。ビジネスでもよくある「限られた資源をどう配分するか」という戦略判断が、このゲームでは非常に明確に浮かび上がります。

このような制約と選択の連続が、思考の優先順位を鍛え、「今やるべきこと」と「後に回すこと」の線引きを自然に身につけさせてくれるのです。

【ボードゲーム レビュー】「テラフォーミング・マーズ」- 火星の地球化を今こそ

多数の変数を“管理”する頭の使い方

『テラフォーミングマーズ』には、カードの種類、資源の流れ、地形、企業効果など、実に多くの変数があります。最初は圧倒されるかもしれませんが、慣れてくると「全体の構造」を見ながら思考できるようになります。

ここで磨かれるのは、「複数の因子を同時に捉え、目的に向けて統合する力」。これはビジネスでいえばプロジェクトマネジメント、人生でいえば複数のタスクや人間関係を調整する力にあたります。

こうした“複雑さに慣れる力”は、AI時代の情報洪水の中で、自分を見失わず選択するための必須スキルです。

選択肢を“科学的に”評価する視点

このゲームの面白いところは、プレイヤーの“感覚”だけでなく“計算”や“推論”を促す設計です。カードごとの期待値、資源コストとの見合い、他プレイヤーの行動からの影響予測など、選択肢を冷静に分析する必要があります。

つまり、意思決定に感情や直感だけでなく、データ的な視点を取り入れる習慣が育つのです。これは、AIと共に働くための「自分なりの合理性」を持つことにも通じます。

後半では、こうした力が現実世界のどんな場面で活きるのかを、実践例とともに掘り下げていきます。

現実に活きる“テラフォ戦略”の応用例

プロジェクトの優先順位づけに活かす

たとえば、複数の案件を抱える職場において、何を最優先に進めるべきか迷う場面があります。納期、重要度、関係者の多さ、影響範囲など、判断材料は複雑です。このとき、『テラフォーミングマーズ』で培った「資源と効果の見積もり」「全体への波及を見越した選択」が、そのままビジネス判断に応用できます。

ゲーム中では、資源投資に対する得点効率や、カード効果の連鎖を瞬時に見極めることが求められますが、現実でも“時間”“労力”“信頼関係”といった目に見えない資源をどう使うかは、まさにテラフォ的発想です。やるべきことを科学的に評価するクセがつけば、行動の優先順位が明快になります。

チームの役割分担や調整にも

このゲームでは、個人プレイが中心でありながら、盤面の影響は互いに絡み合っています。緑地の配置、大気の上昇、海の出現は全員に影響を与えるため、他者の戦略も予測に入れながら自分の行動を選ぶ必要があります。

これは職場やプロジェクトにおける“他者との共創”と同じ構造です。誰かが先に着手すべきことを担い、他者がそれに乗っかる。あるいは、誰かの動きに合わせて軌道修正する。このような関係性の中で、自分の役割を冷静に見極め、調整するスキルが自然と磨かれるのです。

『テラフォーミングマーズ』では、勝ちに直結しない“協調的アクション”すら時に重要となります。自分だけの成果を追わず、全体を読み、流れに乗る力は、AIでは難しい「文脈を読む人間力」そのものです。

最後に:考える楽しさを、取り戻そう

思考を“実験”する場所を持つということ

私たちは、何かを「うまくやる」ことばかりにとらわれがちです。失敗しない、損しない、怒られない…。そんなプレッシャーの中で思考は凝り固まり、反射的な判断ばかりが癖になります。

『テラフォーミングマーズ』のようなゲームは、思考を“遊ぶ”場を提供してくれます。リスクを取る、試してみる、組み合わせる、調整する…。それを繰り返すうちに、自分だけの判断軸が育ちます。しかも、それは「ゲーム」という安全なフィールドの中でトレーニングできるのです。

複雑さに対する“快感”を取り戻す

複雑な問題を前にしたとき、私たちはつい「もっとシンプルにしたい」と思いがちです。でも、人生もビジネスも、本質的には複雑です。だからこそ、複雑さを“嫌う”のではなく、“関係性を読み解く楽しさ”に変えていく必要があります。

『テラフォーミングマーズ』をプレイしたことがある人は、その「絡み合った戦略の網の目」に知的な快感を覚えたはずです。あの感覚を、現実にも応用できるようになれば、私たちは「思考を使うこと」そのものを楽しめるようになります。

そんな知的好奇心と人間力を育てるために、今日もまた、ゲームという世界を覗いてみませんか。

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