「この家、誰も住んでいないのに、ずっと放置されている…」。
通勤途中や旅行先、そんな景色に出会ったことはありませんか?空き家問題は、地方だけでなく都市部でもじわじわと広がっている社会課題です。けれども、どこか他人事のように感じてしまうのもまた事実。
しかし、もしあなたが一度でも“街づくりゲーム”をプレイしたことがあるなら、空き家の存在がどれほど都市のバランスや住民の幸福に影響するか、少し想像できるかもしれません。
空き家は「負債」であると同時に、「可能性」でもあるのです。
この記事では、ボードゲームやシミュレーションゲームで得られる“都市経営の視点”を手がかりに、空き家問題を現実の戦略に変えていくための思考法を紹介していきます。
なぜ空き家問題に“ゲーム的視点”が必要なのか?
リソースは“放棄される”だけでなく、“取り戻せる”
街づくりゲームでは、限られた資源(お金・人口・土地)をいかに活かすかが鍵になります。空き地や荒れた建物を再活用して住居や商業施設に変えると、プレイヤーの収益や住民の幸福度が向上します。これは、現実の都市政策とも驚くほど重なっています。
空き家は「使用されていない=無価値」と見なされがちですが、ゲームでは“再活用”が重要な戦略になります。たとえば、古民家をシェアスペースに転換する、商業利用にリノベーションする、観光資源として生かすなど、選択肢の広さこそがプレイヤーの力量を試すポイント。
ゲームで体験することで、「ただの空き家」が“都市にとっての資源”へと認識が変わるのです。
住民感情とバランス調整は不可欠な要素
現実の街もゲームと同様に、「人口の流出」「住民満足度」「利便性」といった複数の変数が複雑に絡み合っています。空き家をただ埋めればいい、という単純な話ではありません。
実際に再生計画を立てようとすれば、住民の反発や税制、周辺環境とのバランスといった、目に見えにくい要素が次々と現れます。
これも、都市ゲームを通じて学べるポイント。たとえば『シティビルダー』や『SimCity』のようなゲームでは、病院や教育施設を無計画に配置すると住民の幸福度が下がり、税収や人口にも影響します。空き家対策も、「空間的な再配置」だけでなく、「人の感情」との調和が欠かせないのです。
“再配置”と“再設計”をトレードオフで捉える
ゲームにおいては「この建物を残すか、壊すか」「公共施設を建てるか、商業施設にするか」といった選択がプレイヤーに委ねられます。そしてそのたびに、目先の利益か、長期の価値かというトレードオフを考えさせられる。
この構造は、空き家再生にもそのまま当てはまります。
・古い建物を壊して新築にすべきか?
・地域の文脈を尊重して残すべきか?
・誰のために再生するのか?
これらの問いに正解はなく、地域によっても時期によっても変わる——だからこそ、“戦略思考”が求められるのです。そしてそれを、リスクなく練習できる場として、ゲームは最適なのです。
空き家再生の成功事例は「ゲーム脳」が活きている?
実際に空き家再生に成功している自治体やプロジェクトには、都市ゲーム的な思考が活かされていることが多くあります。
たとえば、愛媛県内子町では、歴史的建築を活用した観光資源化に成功し、空き家が「泊まれる文化財」へと変化。これにより町全体の魅力と滞在時間が向上しました。
また長野県上田市の一部エリアでは、空き家を改装してスタートアップ支援拠点に再利用し、若者の流入と経済の循環を生み出しています。
これらの事例に共通するのは、「ただ埋めるのではなく、価値を創造する」発想です。
まさに、プレイヤーが“得点だけを狙う”のではなく、“まち全体のバランス”を設計するゲーム的な思考に通じるものがあります。
課題は“設計者の不在”にある
街づくりゲームでは、あなたが「まちの設計者」です。でも現実では、その視点を持つ人が少なく、空き家は“所有者不明”や“意見不一致”で放置されがちです。
ここにこそ、ゲームを媒介とした市民参加の可能性があります。
たとえば「まちづくりゲームワークショップ」を開催し、参加者が仮想の街の設計者となって空き家の配置と活用法を考える。すると、住民自身が「まちの未来に関与する当事者」へと意識が変化していきます。
このような仕掛けは、行政と市民の分断を溶かし、当事者意識を生む上で非常に効果的です。
現実と仮想をつなぐ“対話の場”としてのゲーム
ボードゲームやシミュレーションゲームは、複数のプレイヤーが戦略と感情を持ち寄り、「対話」しながら進めていく構造を持っています。
この“対話”こそが、空き家再生を進める上でのカギです。利害関係者の思惑、住民の声、まちの歴史——それらを一つひとつ統合し、未来をデザインするには、丁寧なプロセスが求められます。
ゲームはそのプロセスを可視化し、練習し、共有する場になります。
空き家問題という“硬いテーマ”も、遊びを通じて語り合うことで、もっと柔らかく、もっと本質的な対話へと変わっていくのです。
結び:空き家は“まちのバグ”ではなく、“アップデートの入口”
空き家は「まちの失敗」の象徴として語られがちですが、ゲーム的な視点から見ると、それは“リセット可能な構成要素”でもあります。バグではなく、新しい物語を始める入口。
その建物に、どんな人が住んでいたのか。なぜ空いたのか。何ができるか——
こうした問いを持って向き合うことが、まち全体の“可能性の総量”を増やします。
ゲームを通じて学べるのは、空き家の“物件的価値”ではなく、“文脈的価値”。
あなた自身が都市の設計者になり、空き家に新たな意味を吹き込むことができる。そんな想像力を、まずは遊びの中から育てていきませんか?
空き家問題の解決は、政策だけに任せるのではなく、私たち一人ひとりの“プレイ”の中にこそ始まりがある。
街づくりゲームは、その第一歩をくれる最高の相棒なのです。